リヒターの「ヨハネ受難曲」
それ以来、私は毎日のようにリヒターの「ヨハネ受難曲」を聴いていました。
その後、リヒター盤と並び評判の高いロッチェ版を購入、こちらもゆったりとしたテンポと天国的に美しいコーラスで期待どおり素晴らしい演奏にますます「ヨハネ受難曲」にハマッてしまったのです。
ロッチェの「ヨハネ受難曲」
J.S.バッハの「ヨハネ受難曲」の素晴らしさについては、いつか別の機会にまとめたいと思いますが、西洋音楽の最高傑作とまで言われる「マタイ受難曲」に引けを取るどころか、最近では「ヨハネ受難曲」こそJ.S.バッハ、ひいては西洋音楽の最高傑作なのではと思うまでになりました。
私自身、学生時代にリヒターの旧盤を聴いて人生観が変わるほどの衝撃を受けた「マタイ受難曲」ですが、偶然この年になるまでちゃんと聴く機会のなかった「ヨハネ受難曲」は、壮年期も後半を迎えて大抵の物事に感動を覚えることが減ってきた身にも、残された人生に与える衝撃としてはたぶん最大にして最後であろうと思えるほどのインパクトでした。
「ヨハネ受難曲」のどこがそれほど魅力なのか?
平たく言ってしまえば、「ヨハネ受難曲」は「マタイ受難曲」よりもドラマチックで、演奏時間が短い分、人生のすべてが凝縮しているような、そんなところです。
ペテロがイエスを裏切って懺悔の念に駆られるシーンの13曲目のアリア「ああ、わが念いよ」は間違いなく「ヨハネ受難曲」のハイライトなのですが、個人的にはそれと匹敵、いやそれ以上に思い入れがあるのが、後半の27曲目のレチタティーボ(Die Kriegsknechte aber)に続く合唱("Lasset uns den nicht zerteilen, sondern darum losen, wes er sein soll.")の曲です。
Nr.27b Chor第 27b 曲 合唱
"Lasset uns den nicht zerteilen, sondern darum losen, wes er sein soll."
これは裂かないで、だれのものになるか、くじ引きで決めよう!
こんな解釈はもしかしたら邪道なのかもしれませんが、個人的な感性は嘘をつかないのでどうしようもありません。。。
「ヨハネ受難曲」の話はこれくらいにして、本題のApple Musicに入ります。。。
Apple Music
「ヨハネ受難曲」、リヒター盤、ロッチェ盤と聴き込むにつれ、当然他の指揮者の演奏も聴きたくなります。
これまでであれば、名盤と言われるものをネットで検索してそのCDを購入するか、近所の図書館の在庫データベースを検索して借りてくるか、いずれかでした。
今回は、たまたまApple Musicの3か月無料期間だったので、大して期待もせずに気軽な気持ちでApple Musicで「ヨハネ受難曲」の検索をしてみました。すると。。。
驚いたことに、名盤と言われる指揮者や演奏家のアルバムがごっそりと検索に引っかかったのです。。。リヒター盤はもちろん、ピノック盤、鈴木雅明盤、ガーディナー盤、リリング盤、ブリュッヘン盤、ヘレヴェッヘ盤、英語のブリテン盤まで。。。(マイナーレーベルのロッチェ盤はさすがにありませんでした)。
Apple Musicの「ヨハネ受難曲」
Apple Musicの機能や使い勝手についてのレビューはネットにいくらでもあるので、ここでは触れません。
3,000万曲の豊富な音楽ライブラリと定額配信サービスなんて、どうせポピュラー音楽や歌謡曲の世界の話だろう、クラシック音楽には無縁の話と勝手に考えていましたが、そんな固定観念は吹き飛んでしまいました。。。
こんな便利なサービスが月額たった980円とは。。。
更に衝撃的だったのは、上のキャプチャ画像の左下に見えている赤いジャケットのCD、これはガーディナーのBach Sacred Masterpiecesという22枚組CDです。
ガーディナーのバッハカンタータ選集(22枚組CD)
実は私はこの22枚組CDを数年前にHMVから購入して所有していました。内容のほとんどはバッハのカンタータ選集で、私もカンタータを少しずつ聴いていたのですが、実はガーディナー指揮のヨハネ受難曲も含まれていたんですね、全く気付きませんでした。
その上、AppleMusicのサービスを使えば、この22枚組CDの中身を、面倒なCDからのライブラリ化をしなくとも、その場で全楽曲をいきなり聴くことができてしまうのです!
CDボックスセットのライブラリ化作業をやられた方ならご存知かと思いますが、iTunesであってもdPowerAmpであっても、CDのメタデータ情報がバラバラで、同じセットなのに、ディスク毎にメタデータが統一されておらず、折角リッピングしてもライブラリ管理のためには、手作業でアルバムタイトルを編集しなければならない、なんてことが良くあるわけですが、Apple Musicではそのような作業とも無縁です。
クラシック音楽を配信サービスの低品質な音質で聴くなんて。。。という抵抗もあるかと思います。自宅のライブラリはすべてハイレゾもしくは非圧縮音源という方がほとんどだと思います。
しかし、こうして便利に曲を自由自在に聴ける環境に一度慣れてしまうと、わざわざすべての音楽試聴を手間と時間をかけて高音質な環境でというのは、正直バカバカしくなってしまいます。
気に入った曲や演奏がわかれば、あとでゆっくりCDなりハイレゾで聴けば良いのです。
最初から愛聴盤になるかどうかわからない演奏を、時間をかけてCDやハイレゾで聴くというのは、人生の貴重な時間を無駄遣いしているとさえ思えて来ました。
Apple Musicのさらにスゴイところは、端末を選ばないクラウドサービスなので、同じ楽曲を外出先のiPhoneでも、リビングのAppleTVでも、寝室のiPadでも、何の意識もせずに聴くことができるという点です。もはや楽曲を転送とか、NASに保存してアクセスとか、そんなことさえ意識する必要がありません。
私はおかげで、「ヨハネ受難曲」の他の演奏と聴き比べて、例えばブリュッヘン盤もなかなかいいなとか、鈴木雅明BCJ盤は気に入ったのでSACD盤を買おうとか、ガーディナー盤はあっさり淡泊で好みではないなとか、取捨選択があっという間にできてしまいました。
私が保有している「マタイ受難曲」のCDはたぶん20セットくらいだと思いますが、リヒター盤のレコードを買った学生時代からコツコツと30年以上かけて買い増してきたものです。
それと同じ体験がApple Musicで文字通り瞬時で済んでしまうというのは、正直複雑なものがあります。。。あのCDを開封してプレーヤーにセットして期待にワクワクしてなんて体験はもうそこにはありません。
音楽の聴き方にこれが正しいとか悪いとかはないと思いますが、従来の音質重視で儀式的にかしこまって聴くのもそれはそれで良い処もあったと思います。
Apple Musicのような最近の手軽な音楽の聴き方を頭ごなしに否定するような考え方も残念ながら根強いのではないでしょうか。。。圧縮など邪道、CDこそ正しいメディアだ、と。
しかしそのCDでさえ、最近はボックスセットでの叩き売りのような状態で、かつてのような厳選したCDを自宅に持ち帰ってワクワクしながら聴く。。。なんてこととは無縁の世界になってしまいました。恐らくほとんどの方は自宅にボックスセットで大人買いして未だに開封さえしていないCDが貯まっているのではないでしょうか。。。
技術の進歩とは怖ろしいものがあります。。。頑なに従来のCDディスク再生の試聴スタイルもひとつの道で、それにはその良さがあることも否定するものではありませんが、これほど便利なものの味を占めてしまうともはや元には戻れないのも事実です。。。
いやはや、Apple Music恐るべし、です。
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