宇宙は本当にひとつなのか
ブラックホールや多次元宇宙といったトピックから最近のダークマターやダークエネルギーといったおなじみのテーマをとても分かりやすく、親切丁寧に説明してくれる良書でした。
著者の村山斉博士は、NHKで放映されている科学番組「コズミックフロント」でもたびたび登場しています。
村山斉博士
「宇宙は本当にひとつなのか」で解説されている宇宙のテーマは、コズミックフロントの放映内容にも引き継がれています。
以下に、そのコズミックフロントの放映内容を参照しながら、「宇宙は本当にひとつなのか」の内容を紹介します。
第一章 私たちの知っている宇宙
宇宙を構成している物質の27%はダークマター、そして実に68%はダークエネルギーで、通常の物質は全体の5%にも満たないということです。
超新星爆発が起きるときは、光とともにニュートリノもたくさん出ます。ニュートリノのエネルギーは光のエネルギーの100倍もあります。
かつてはニュートリノがダークマターの正体ではないかと考えられていた時期もありましたが、ニュートリノの正確な質量が日本のスーパーカミオカンデで測量された結果、ダークマターの推定質量の1/100にも満たないことがわかったのです。
ダークマターはニュートリノのような何らかの素粒子ではないかということで、その素粒子を発見するためにXMASSという装置を奥飛騨の山中の地下1,000mに設置して測定しています。ニュートリノやほかの素粒子とは、出てくる光のエネルギーやパターンが違うので区別できるということです。
XMASS観測装置
これと並行にヨーロッパの大型ハドロン衝突型加速器(通称LHC)を使って陽子同士を衝突させたときにダークマターが生まれるかどうか確認するという実験も行われています。LHCの実験に関しては以前ブラックホールのブログに詳しく触れました。
大型ハドロン衝突型加速器
光速近くのスピードで陽子を衝突させます
銀河系の中心部分にあるブラックホールは、太陽の約400万倍の重さを持っていることがわかりました。他の銀河には太陽の100億倍もあるブラックホールがあるものも見つかっています。
太陽系は銀河のなかで秒速220キロの猛スピードで動いています。光速の約1400分の1のスピードです。猛烈なスピードですね。
太陽系を銀河系に繋ぎ止める力
これほどのスピードで動いていると太陽系には遠心力が働くので、太陽系にかかる重力だけではとても繋ぎ止めることができません。
重力以外に太陽系を銀河系に繋ぎ止めているのが実はダークマターなのです。
第二章 宇宙は暗黒物質に満ちている
銀河同士が衝突するとき、光速の1.5%という猛スピードで衝突します。ガスは普通の物質なので高温になり摩擦が起きます。しかし、暗黒物質は周りのものと反応しないので、通り抜けてしまいます。
遠くの銀河からの光が重力レンズ効果で屈折させられることを利用してダークマターの詳しい分布が明らかになりました。
重力レンズ効果
ダークマターの分布
銀河の分布と同様に、ダークマターも泡構造をしていることがわかりました。ダークマターと銀河は同じ場所に存在していたのです。
第三章 宇宙の大規模構造
暗黒物質がある場合は、暗黒物質が重力で引き合い、集まってくるので、濃淡ができ、銀河ができて、大規模構造もできてきます。しかし、暗黒物質がない場合は、星や銀河ができず、私たちも生まれないということになります。
137億年前にビッグバンが起きました。ビッグバンの38万年後、宇宙のなかを光が進めるようになりました。これより前は、電子と原子核がバラバラで光はまっすぐ進むことができませんでした。
力の働いている物質の間で、素粒子のキャッチボールがされているのです。この素粒子はボソンと呼ばれ、クオークや電子といった物質をつくる素粒子のグループの呼び名であるフェルミオンと区別されています。ボソン、フェルミオンに加えて、ヒッグス粒子という重さを与えている素粒子があります。
電磁気力は光子、強い力はグルーオン、弱い力はウィークボソン、重力はグラビトン(未発見)です。
ちなみに、この宇宙の構造を調べるプロジェクトでハッブル宇宙望遠鏡の観測時間の史上最大を割り当てられたコスモスプロジェクトには、日本人の谷口義明センター長(愛媛大学 宇宙進化研究センター)が参加しました。下の集合写真を良く見ると、一番前の真ん中にまるでプロジェクトリーダーであるかのように目立っています。
コスモスプロジェクトのメンバー
谷口義明センター長
谷口センター長は、村山斉博士と並んで、日本の宇宙科学界を代表する顔ですね。
ちなみにこのコスモスプロジェクトのリーダーは、カリフォルニア工科大学のニック・スコビル教授でした。コズミックフロントに出てくる欧米の大学教授って、暮らしぶりが本当に豊なんですよね。ニック・スコビル教授のご自宅も、素晴らしい大自然の環境のなかに建てられています。
ニック・スコビル教授の自宅
研究者たちとの懇親
第四章 暗黒物質の正体を探る
かつてはブラックホールがダークマターではないかと考えられましたが、計算したところ総量が少なすぎました。次にニュートリノがダークマターではないかと考えられましたが、これも総量が少なすぎました。
最初にビッグバンでできた重い素粒子が生き残ったのがWIMPという物質です。なかでもコールドWIMPの種類でアクシオンとニュートラリーノはダークマターの有力候補でした。
しかし、「宇宙は本当にひとつなのか」が発刊された後の2014年に、XMASS実験の結果で「Super-WIMP」がダークマター候補の可能性から除外されてしまいました(こちらの記事を参照)。約半年間の観測データから、Super-WIMPに相当する質量の粒子による信号が見つからなかったのです。
リサ・ランドール博士は「ワープする宇宙」という著書で、ダークマターは異次元から来たという説を唱えています。
リサ・ランドール博士
リサ・ランドール博士ってネットで調べてビックリ。こんな美人な理論物理学者がいるとは。。。米タイム誌で世界で最も影響力のある100人にも選出されたそうです。究極の才色兼備ですね。。。
一方、超対称性理論の研究では、ダークマターは超対称性粒子ではないかと推測されて研究が進められています。
超対称性粒子
欧米ではCERNのHNCが、日本ではXMASS観測装置が、ダークマターの証拠を発見するために調査を続けています。
第五章 宇宙の運命
宇宙の運命は可能性が3つあります。
村山博士が宇宙の将来を説明
1.ビッグクランチ(最終的には小さな点に収縮する)
2.ビッグフリーズ(一定の速度で膨張し続ける、冷たい世界ですべてが停止する)
3.ビッグリップ(膨張が加速し続ける、最後にはすべてがバラバラになる)
宇宙の未来はどうなる?
コズミックフロント「発見!驚異の大宇宙 ”宇宙の終わり” に迫れ」(2013年4月11日放映)では、村山博士がこの3つのシナリオを詳しく説明しています。
コズミックフロント「宇宙の終わりに迫れ」
3つのシナリオ
宇宙は3つのシナリオのうちどの運命を辿るのでしょうか?
現在、最も有力視されているのが、ビッグフリーズかビッグリップです。
シナリオ1のビッグクランチは、重力によって星が一つの点に収縮するものです。アインシュタインはアインシュタイン方程式と呼ばれる宇宙方程式で、その謎を解こうとしました。
アインシュタイン方程式
方程式の左辺は「空間の大きさ」を意味します。右辺は「物質・エネルギー量」を意味します。
アインシュタインは、この式に宇宙の「物質・エネルギー量」を代入してみたところ、左辺の「空間の大きさ」よりも大きくなる、つまり、宇宙は収縮してしまうという結論になってしまいました。
当時は、宇宙は未来永劫膨張も収縮もしない不変なものであると考えられていたのです。
それから10年後、ハッブルが宇宙の膨張を発見するに至り、アインシュタインはこのラムダ宇宙項は間違っていたことを認め、人生最大の過ちと語っています。
ビッグクランチは、その後ブラックホールの存在が証明されることで、より説得力のあるものになりました。
しかし、宇宙全体を呑みこんでしまうほど巨大なブラックホールは見つかっていません。
一方、ビッグクランチの要因としてダークマターが大きな役割を果たすのではないかと考えられるようになりました。
ダークマターがビッグクランチを引き起こす?
1990年代の科学者たちは、遠くの超新星、特に波長などの性質が共通であるIA型を比較観測することにより、過去の宇宙の膨張速度、そして未来を予測することができるのではないかと考えました。
コズミックフロントスペシャル「5つの疑問で 宇宙の謎に迫れ!」(2011年12月31日放映)では、その超新星観測を2つのチームが切磋琢磨しながら競争した経緯について紹介しています。
コズミックフロントスペシャル「5つの疑問で 宇宙の謎に迫れ!」
ひとつのチームは、ローレンス・バークレー国立研究所のサウル・パールムッター博士率いる物理学者チーム、もうひとつのチームは、オーストラリア国立大学のブライアン・シュミット教授率いる天文学者チームです。
二つのチームは最終的にはハッブル宇宙望遠鏡を使った超新星観測などを通して、宇宙の膨張速度は当初予想されていた減少どころか速くなっているという驚くべき事実を発見しました(1998年に共同で発表)。これは、暗黒エネルギーが存在していることの証明と、暗黒エネルギーが膨張とともに増えているということを意味します。
サウル・パールムッター博士とブライアン・シュミット教授は、揃って2011年のノーベル物理学賞を受賞しました。
ノーベル賞受賞式
ちなみにサウル・パールムッター博士は、村山博士とカリフォルニア大学バークレー校で同じフロアで仕事をしていたそうです。
アインシュタインが撤回した重力の反対に働く力、ラムダ宇宙項は反重力であるダークエネルギーの発見とともにこうして再び復活したのでした。
シナリオ3のビッグリップでは、膨張速度が一定の範囲内であれば膨張が永遠に続きますが、それ以上だと、どこかで無限大になってしまい、宇宙がバラバラになって終わってしまいます。
ビッグリップ
2013年は、ちょうど、宇宙の年齢が今まで考えられていた137億年より6000万年も古く、約138億年であることがわかった年でした。
138億年前のビッグバン以来、宇宙はダークマターの強い重量によって膨張の勢いがゆっくりになってきました。ところが、宇宙の誕生から70億年くらいから、なぜか、ダークエネルギーの影響で膨張が加速し始めました。
ダークエネルギーの存在が発見されたことで、ビッグクランチのシナリオ1は可能性がゼロとなったわけです。
ビッグリップでは、ダークエネルギーの増え方が極端で宇宙は急激に膨張し、やがて宇宙は引き裂かれます。すべての物質は原子レベルでも引き裂かれ素粒子まで分解されます。星は脹れ上がって爆発します。
ビッグリップの宇宙図
しかしこのビッグリップが起こるまでは計算ではあと数百億年先ということで一安心ですね。
一般に宇宙が膨張すると、暗黒物質は薄まる方向に対して、暗黒エネルギーは薄まらない方向、つまり増加するという関係があります。暗黒エネルギーは宇宙の膨張とともに増えてゆくという常識では信じられない関係があることがわかりました。
2013年3月21日の発表では、誕生直後の宇宙ではダークエネルギーはほとんど存在していないことがわかりました。しかし現在では、ダークエネルギーは宇宙の68%を占めるまでに増えていることがわかりました。
ダークエネルギーの比率
日本のすみれプロジェクトをはじめとして、遠くの銀河を詳細に観測することでビッグバン以降のダークエネルギーの遷移を調べる試みが進んでいます。2018年にはすばる望遠鏡に銀河の移動速度を測る分光器が稼動します。今後の発表が楽しみです。
一方、超ひも理論では、膨張が進むと、泡宇宙といって泡がどんどん発生して、泡のなかでは暗黒エネルギーがなく、加速膨張もしません。泡で宇宙が埋め尽くされると、宇宙の加速膨張が止まります。
泡宇宙
膨張している宇宙ではエネルギー保存の法則は成り立ちません。
第六章 多次元宇宙
超ひも理論では10次元と予言されています。3次元以外の次元はすごく小さいのです。
重力は電磁気力の36桁も違うほど弱い。しかし、重力は打ち消し合わない。なので日常生活で弱いと感じないのです。
重力は異次元ににじみ出るので弱くなっていくと考えられます。ブレーン(3次元空間の膜)の外側にある異次元です。
ちなみに異次元は超ミクロの世界にカラビ・ヤウ多様体という形で隠れて潜んでいるため、普段は見ることができないそうです(「神の数式」より)。
カラビ・ヤウ多様体
第七章 異次元の存在
LHCの衝突実験では重力の一部が異次元にしみ出てしまい、見かけのエネルギーが減ったようになります。
LHCの実験でブラックホールができるのであれば、異次元があるという証明にもなります。しかし異次元の詳しい実験はリニアコライダーという別の粒子加速器が必要になってきます。
リニアコライダーでは電子と陽電子を使い、円形のLHCに対して全長30km程度の直線形のためエネルギーのロスを少なくできるメリットがあります。
国際リニアコライダーの最終的な建設地は今のところ未定ですが、日本以外に積極的に誘致している所があまり見られないようなので、このまま計画が進めば日本国内に建設されるかもしれないということです。
国際リニアコライダー
量子力学の基本原理に不確定性原理があります。ミクロの世界では物質の場所と速さを同時に求めることができません。
異次元を運動している粒子がダークマターではないかと考えられています。
第八章 宇宙は本当にひとつなのか
多元宇宙 - 宇宙はたった一つではなく、いくつもあるのではないかという説です。
真空は実は、粒子と反粒子ができたり消えたりしているのです。粒子や反粒子はエネルギーがないとできません。しかしその真空エネルギーは暗黒エネルギーよりもけた違いに大きいので、暗黒エネルギーではありません。
超ひも理論では、私たちが素粒子だと思っていたものは、実は振動して広がっているひもなのです。
超ひも理論
超ひも理論を使うと、量子力学と相対性理論の統合が説明できます。また、ブラックホールの特異点を説明できるそうです。
超ひも理論に関連した理論で、6次元空間というものがあります。
この世の中は超ミクロの世界では6次元空間に複雑に折りたたまれたカラビ・ヤウ多面体という非常に複雑な形状をしているとの説です。
カラビ・ヤウ多面体では10次元説もあり、空間の9次元と時間の1次元、計10次元の時空で構成されているとされます。
このうち、我々が認識できるのは3次元の空間と時間の1次元だけだ。残りの6次元(余剰次元)はどうなっているのかといえば、小さく折りたたまれて「コンパクト化」されていると考えられている。それがどのような形をしているのかというと、カラビ・ヤウ多面体の形をしていると予測されています。
4次元空間の世界はSF小説のなかの話だけかと思ったら、理論的には超ミクロの世界では存在の可能性が証明されているんですね。
また、究極の宇宙理論に、人間原理という考えがあります。
宇宙は、そもそも知的生命体が生まれるような構造をしている、という主張です。
この宇宙は知的生命体に都合良くできすぎているのです。
物理定数が人間のような知的生命体の存在に都合のよい数になっているのが不自然であり、真空エネルギーがたまたま小さい宇宙に人間が現れたという考えです。
この考えだと、宇宙には果てしない数の他の宇宙があり、そこでは物理定数も異なるため知的生命体は存在できず、また、ビッグバン自体も1度きりではなく、果てしない数発生しているとの究極の理論です。
サイクリック宇宙論では、二つのブレーンが近寄って跳ね返ったときにビッグバンが起きると考えます。そしてサイクルで再び膜同士の衝突が起きます(サイクリック宇宙論は、実際のデータとあまり合わず下火になっています)。
サイクリック宇宙論
超ひも理論、10次元空間、人間原理、サイクリック宇宙論。。。宇宙は本当にひとつなのかどころではなく、無限の宇宙が同時並行して存在するパラレルワールドがむしろ自然ではと思えてきました。
となると、宇宙の知的生命体は、やはり人類だけなのかもしれません。
最後はいろいろ話題があちこちに飛んでまとまりのないブログになってしまいましたが、宇宙に関する興味は尽きません。。。
(おわり)
にほんブログ村
コメント