オリエンテーリングやロゲイニング、アドベンチャーレースのように地図を読みながらゴールを目指すスポーツには、地図読みの技術は必須です。
地図とコンパスを使って、尾根や谷、ピーク、鞍部(あんぶ)、平地、トラバースなど、等高線から地形の特徴を読み取りながら山を歩くと、これまでの漠然と標識だけを頼りにしていたのと違って、自分が進む先のイメージが具体的に沸いてきます。
地図読みの技術は奥深く、私のような初心者は慣れるまで苦労しますが、これを機会に地図読みの基本を身に着けたいと思います。
1. 正置とは
正置(または整置、せいち)とは、「地図上での自分が行きたいと考えている方向と現実の方向を合わせること」です。オリエンテーリングにおいて最も基本となるもので、一番初めに覚えるものということです。具体的には、コンパスと地図を持って、地図上の磁北線(赤い線)と、コンパスが指す北が平行になるように体(もしくは地図自体)を回して、自分の行きたい方向を確認する動作です。
地図の中央あたりに縦に入っている赤線が、磁北線です。
地理院地図(印刷)
地理院地図(ネット画面)
まず、地図上で自分の現在の位置と、進むたい方向をしっかり確認し、進む方向が進行方向正面になるように地図を回転させます。
次に、プレートコンパスを、地図の上に置いて、コンパスの矢印の北(赤い針)と磁北線を合わせるように体を動かします。
正置
これで、コンパスと磁北線の方向が合った時点で、自分の正面が進む方向となります。
プレートコンパスはいろいろな機能があるようで、リング部分をぐるぐると回したくなるのですが、今回はその機能は使わないということで、気にしないことにします。
今日の地図読みイベントは、逗子駅から徒歩20分ほどの蘆花記念公園がスタート、公園の入り口で正置の基本のレクチャ-を受けました。
蘆花記念公園
山を歩くときには、スマホなどGPS機能のついた端末を携行していくことが多いと思います。
ガイドの友人のおススメで、手持ちのiPhoneに、ジオグラフィカ(Geographica)という無料アプリをインストールしました。
ジオグラフィカ
ジオグラフィカは、オンラインだけでなく、オフライン環境でも使える登山用の山岳ナビゲーションアプリです。
またジオグラフィカは、デフォルトで地理院の地図が利用できるので、国内では特に使いやすいということです。
話を正置に戻します。
今回は、スタート地点が蘆花記念公園入口、最初の目的地は第2古墳(長柄桜山古墳群2号墳)です。
長柄桜山古墳群2号墳
例えば逗子海岸など、地図上の目印が周囲にハッキリとわかる状況であれば、正置という作業は何となくできてしまうものですが、これが山のなかで左右どちらも木しかないような場所では、なかなか難しそうです。
未舗装の道は地図に載っていない場合が多いので、地図や標識を頼りにするよりも、地図を読みながら自分の現在位置と目的地の方向を常に把握することが大切です。
道標
途中の道標には、「長柄桜山古墳群」の方向が明記してあるので、間違えることはありませんね。
逗子海岸
逗子海岸を右手に見ながら坂道を上ります。
やがて「第2号墳へ10分」という道標の場所まで来ました。
民家などの建物は、地図上では桃色で表示されているので目安にはなります。
逗子海岸の望める登山道を過ぎると、山林に入りました。
ここからは、正置だけではなく、地図の等高線読みの基本を教えてもらいながらの実地訓練です。
2. 等高線の読み方
等高線とは、地図上で同じ高さの集まりでできている線のことで、25000分の1の地図では 10mごと(50000分の1の地図では 20mごと)に引かれています。まずは地形の名称です。
- 尾根:谷と谷を分ける山の高み
- 谷:尾根にはさまれた山の深み
- 山頂:山の頂上、ピーク
- 平地:起伏の小さい平らな土地
山道は、尾根の場合と谷の場合があります。
尾根は左右が下がっている稜線のため、地図になくても獣道のような登山道や抜け道になっている場合が多くあります。
そして、尾根の反対が谷です。
谷は、周囲と比較して低い場所で、川が流れていたり、尾根とは対照的な道です。
地図を見てその地形がどのようになっているか、どのようなルートを辿れば良いかを知るためには、等高線を見て、尾根の道と谷の道(沢の道)を読み取れるようになる必要があります。
以下の図は山頂と麓を結ぶルートの例ですが、ピンク色が尾根のルート、青色が谷のルートです。
尾根と谷(Geographico!より引用)
山頂から等高線張り出している方向が尾根ルート、逆に山頂に向かって張り出しているのが谷ルートになります。
周りよりできるだけ高いところを歩くルートのことを「尾根」線、周りよりできるだけ低いところを歩くルートのことを「谷」線と呼びます。
等高線の感覚が狭いほど、急峻な尾根ということですね。
山登りやハイキングのときに、漠然と標識に従って歩くよりも、地図を片手に、この先の地形がどうなるっているのか想像できるようになれるのが理想です。
正置をしながら進む方向の地形を把握して歩くというのは、最初はなかなか慣れず苦労しました。。。
しかし、常に地形を意識しながら歩くと、これまでの山歩きとは全く違うレベルの楽しさがあります!
地図を読みながらの山歩きというのは、目的の場所や景観になるべく効率的に到達したりというのではなく、先が果たしてどうなっているのかを想像しながら進むという非常に知的な活動ということを体験しました。
地図を読みながら山を歩くのは、標識だけを頼りに山道を走り抜けるトレランのようなスポーツとは対極にあることがわかりました。
もちろん、何が良いという話ではないのですが、スピードと疾走感を求めるトレランや、標識沿いにのんびり歩く山行に加えて、地図を読みながら山を歩くというのは新鮮でした。
尾根道
上の写真は、下の地図の赤い矢印の方向に向かって尾根を上っているところです。
地図上の尾根道
地理院の地図には道は載っていなくても、等高線を読むことにより尾根を上ると目的地(長柄桜山古墳群2号墳)の方向に進むことが良く分かります。
標識
やがて、目的地の長柄桜山古墳群2号墳に到着しました。
長柄桜山古墳群2号墳
長柄桜山古墳群2号墳は、4世紀後半に造られた前方後円墳とのことで、この高台からの見晴らしは素晴らしいものがあったに違いありません。
実際に、2号墳の近くの見晴らし広場からは、逗子海岸と江の島、そして遥か遠くには富士山を眺望することができます。
ここで休憩、今日は風がやや強いものの、良い天気に恵まれました!
古墳群がある高台は平地になっており、そこからいくつかの尾根ルートが張り出しています。
尾根を下ります
ガイドの友人に先導されてそのうちの1本の尾根を下ります。
ところが。。。
途中で様子が怪しくなってきました。正置して確認すると、南ではなく西側に向かっています。
どうやら、間違った尾根を下ってしまったようです!
元の高台まで引き返して、正しい尾根を確認することができました。
これは偶然の出来事でしたが、ベテランガイドでも尾根道の選択を誤ることもあるという良い教訓になりました。
この先は、南西方面にある平地の場所を目指して、地図読みをしながら進みました。
目的地の平地
地図上では等高線が描かれていない平地であっても、実際には10m未満の多少の起伏があるので、道を選ぶのはなかなか難しかったです。
特に、地図読みをしながら時間をかけて進むと、実際に進んだ距離は感覚よりもずっと短い場合が多く、判断を迷わせる要因にもなります。
ベテランの方に教えてもらったのが、自分の歩幅を予め覚えておいて、歩数を数えて距離を割り出すというものでした。
ネットで調べたところ、大人の平均の歩幅は、身長-100cmが目安のようです。
歩幅と歩数から距離を確認する歩き方は上級者向けだと思いますが、山歩きで遭難をしないためにも自分の歩幅は覚えておこうと思います。
ところで皆さんは「峠」とは具体的に何を意味するかご存知でしょうか?
実は、私は峠というのは山頂と同じ意味だと勘違いしていました。
峠とは、実は、山道を登りつめてそこから下りになる場所のことで、尾根ルートの鞍部(あんぶ)と呼ぶ、尾根上の一番低くなった(くぼんだ)部分のことなのです。
なので、峠は、山頂から尾根を下ると一番低くなった部分で、山頂とは全く異なるものなのです。
山を越えて隣の村に行くことを考えるとわかりやすいです。つまり、隣村に行くのになるべく労力をかけずに低いルートを選ぶとすると、峠を越えることになるわけで、その場合は、尾根の最も低い場所(鞍部)になるわけです。
いろいろ勉強になりますね。。。
ところで季節は2月の中旬というの本当に暖かい日和でした。
逗子の桜山は自然が素晴らしい。。。冬山でも自然が豊富です。
ジャノヒゲ
フキノトウ
3. 地図読みだけで目的地に!
小屋が1軒立っている高台からのルートは、なんとガイドのアドバイスなしで、チームに分かれて地図読みをすることになりました!高台からはいくつもの尾根があります。なかには道になっていないような通るのがやっとのルートもありますが、どれが正解でしょうか?
とにかく目的地の方向に張り出している尾根を探して試行錯誤で進みます。
しかし、下りはかなり急な坂で、おまけに大量の茂みと倒木に行く先を阻まれてしまい、本当にこの方向で正しいのでしょうか。。。
やがて、かつては木製の展望デッキらしき廃墟に出くわしました。確かにここからは逗子海岸が一望できますね。
展望デッキの廃墟
葉山港
滑落しないように用心しながら道なき道を進みます。。。
想定以上にワイルドな道ですが、なかなか楽しいです!!
いやーしかしこれはスゴイところを降りていきますね。
選んだ尾根は、急峻で道らしい道はありませんでしたが、どうやら地図読みとしては正しいルートでした。
こうして全員無事に目的地に下山することができました。
地図読みの基本がわかると、山道を歩くときの意識が大きく変わりました。
イベントに誘ってくれた友人、そして先導ガイドしてくださったベテランの方々にも心から感謝します。
これから山に行く時は、標識ばかり頼りにせずに、地図とコンパスを携行して地図読みしながら山歩きを楽しもうと思います。
↓午後はマウンテンバイクで逗子の三浦アルプスを縦走!↓
コメント