不可解な事件ばかり起こる町キャッスルロックを舞台に、ショーンシャンク刑務所に幽閉されていた謎の青年と、幼少期に行方不明になった過去を持つ弁護士との関係を中心に、謎の事件が次々に発生。。。というストーリーです。
日本では、2019年にWOWOWで第1シーズン(全10回)が放映されました。
『キャッスルロック』で描かれるスティーヴン・キングのダークな世界観は、宗教、罪悪、歴史、そしてパラレルワールドのようなSF的な要素も絡み合い、思わず引き込まれてしまいます。
謎が謎を呼ぶストーリー展開なので、人によって意見はバラバラだと思いますが、以下に私なりの解釈をまとめてみました。
注意:以下はネタバレ満載の内容です。
1. 作品の概要
ストーリーは以下のような感じです(Amazonより引用)「不可解な事件ばかり起こる町キャッスルロック。ショーシャンク刑務所の所長デール・レイシー(テリー・オクィン)が自殺し、彼の死後に地下で何年も閉じ込められていた謎の青年(ビル・スカルスガルド)が発見される。
しかし彼は「ヘンリー・ディーヴァー」という名前しか囁かない。ヘンリー(アンドレ・ホランド)は幼少期にキャッスルロックで一時行方不明になっていた少年であり、現在は弁護士として暮らしている男の名前だった。
青年が発見されたことで、町で繰り広げられる数々の怪事件。謎の青年は一体誰なのか? 何故幽閉されていたのか。。。??」
(引用おわり)
悪魔の化身である謎の青年を演じるのは、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』で悪の存在“ペニーワイズ”を演じたビル・スカルスガルド、主演の弁護士ヘンリーを演じるのは、『ムーンライト』に出演していたアンドレ・ホランド、そして、ヘンリーの母親役は、あの『キャリー』でスティーヴン・キングとは縁の深い名優シシー・スペイセクが好演しています。
オープニングロール
『キャッスルロック』には、スティーヴン・キングの過去の作品に登場する人物や場所がたくさん出てきます。
謎の青年が監禁されていたショーシャンク刑務所は、『ショーシャンクの空に』や『スタンド・バイ・ミー』でお馴染みだし、『キャッスルロック』という架空の街は、1979年の小説『デッド・ゾーン』をはじめ『クジョー』『スタンド・バイ・ミー』『ニードフル・シングス』などの舞台になっています。
また、『グリーン・マイル』のページの一部や『シャイニング』の惨劇の舞台である部屋番号217なども登場します。
しかし、個人的には、そのような関連性の謎を気にしなくても、『キャッスルロック』自体で完結した作品として観ても十分に楽しめると思います。
2 パラレルワールド
『キャッスルロック』で描かれる不可解な事件の原因は、パラレルワールド(並行世界)を自在に行き来する悪魔の仕業なのですが、そこに人間生来の「原罪」が複雑に絡み合うところに、底知れぬ怖ろしさを感じます。以下パラレルワールドのWikiから引用です。
パラレルワールド(parallel world)とは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。並行世界、並行宇宙、並行時空ともいう。
「異世界(異界)」、「魔界」、「四次元世界」などとは違い、パラレルワールドは我々の宇宙と同一の次元を持つ。SFの世界でのみならず、理論物理学の世界でもその存在の可能性について語られている。
(引用おわり)
パラレルワールド
パラレルワールドを題材にした映画や小説はこれまでもたくさんありましたね。
個人的に印象に残っている映画は、宇宙飛行士の父親と娘の触れ合いを描いた『インターステラー』や、二人のスポックが登場する『スタートレック』(2009年)などです。
余談ですが、『スタートレック』(2009年)は、『キャッスルロック』の製作総指揮であるJ.J.エイブラムスが監督でした。
しかし、『キャッスルロック』に登場するパラレルワールドに最も共通点が多いのが、デヴィッド・リンチ監督のTVシリーズ『ツイン・ピークス』です。
『ツイン・ピークス』
実は、『キャッスルロック』と『ツイン・ピークス』は、どちらも「善と悪」をテーマにした非常に似たコンセプトの映画なのです。
『ツイン・ピークス』では、現実世界と「赤いカーテンの部屋」と呼ばれるパラレルワールドが登場します。
赤いカーテンの部屋
パラレルワールドからやってきた二人のクーパー捜査官は、片方は善人の象徴、もう片方は悪の象徴として描かれていました。
『キャッスルロック』の謎の白人青年(ヘンリー・ディーヴァー)も、パラレルワールドの向こう側では将来が有能な若手ドクターですが、こちらの世界では「悪の化身」で地下牢に幽閉されています。
ヘンリーの母親のルースは、認知症が進行しており、夢と現実の世界を行き来するのですが、彼女は、このパラレルワールドを誰よりも正しく認識していました。
アランと駆け落ち寸前まで行ったにも関わらず思い止まった過去や、アランを誤って射殺してしまった過去に対して、「そうではなかった」別の自分の存在に悩まされ、何度も自殺を図ろうとします。
ルースは、自殺によってパラレルワールドの別世界に行くことを夢見ていたのではないでしょうか?
そのルースを助けたヘンリーの幼馴染みのモリーも、謎の青年にこう質問します。
「もうひとつの世界では私はどんなだったの?」
謎の青年は、「今より幸せそうに見えた」と言い残しますが、その言葉はモリーにとって絶望的に重くのしかかりました。
私たちは、過去を振り返り「ああすればよかった」とか「あんなことが起きなければ」と悩むことがありますが、パラレルワールドの存在を信じることは、神の存在を信じて救いを求めることと似ている気がします。
ツインピークスについて書いた記事はこちら↓です。
デヴィッド・リンチの最高傑作『デューン/砂の惑星』『マルホランド・ドライブ』『ツイン・ピークス』
3 神の声
(黒人少年の)ヘンリー・ディーヴァーの養父は、キャッスルロックの元牧師でした。厳格な父親に次第に反発を強めた少年時代のヘンリーは、父親を崖から突き落としてしまいました。ヘンリーの父親の息の根を止めた真犯人は、ヘンリーの幼馴染みのモリーというのも衝撃の事実でした。彼女は、ヘンリーの心を読むことができたので、(ヘンリーに誘導されるように)彼の願望を叶えてしまったのです。
モリーがヘンリーを殺した
ヘンリーの母親も、街の若い保安官(アラン・パングボーン)と不倫関係にあり、夫の死を内心望んでいました。
ヘンリーの父親は、その不倫関係を見抜いており、厳格な聖職者としてそれを許すことはできませんでした。
ヘンリーの父親は、森で息子に「罪の報酬は死なり」と言います。
ローマ書6章23節
ローマ書6章23節の引用です。
ローマ書とは、新約聖書の「ローマ人への手紙」のことです。6章23節はこう記してあります。
「罪の奴隷であった時は、あなたがたは義については、自由にふるまっていました。その当時、今ではあなたがたが恥じているそのようなものから、何か良い実を得たでしょうか。それらのものの行き着く所は死です。しかし今は、罪から解放されて神の奴隷となり、聖潔に至る実を得たのです。その行き着く所は永遠のいのちです。罪から来る報酬は死です。しかし、神の下さる賜物は、私たちの主キリスト・イエスにある永遠のいのちです。」
意訳すると、罪の最終的な報酬は永遠の死であり、死は神との関係を断つことを意味します。
ヘンリーの父は、妻を殺すことを考えていたのです。
つまり、主要な登場人物はすべて何らかの罪を背負って生きているわけで、謎の白人青年は、自ら罪を犯す代わりに、人間の内面に潜む「悪」を引き出してしまう触媒のような存在でした。
謎の青年は、27年間も地下牢に幽閉されていたにも関わらず、正気を保っているばかりか、全く歳を取らない容姿を保っているから、その正体は人間ではなく悪魔そのものでしょう。
実際、謎の青年の素肌に手袋を外して触れたデール刑務所長は、その直後に悲惨な自殺を遂げるし、警備員のザレフスキーは、待望の我が子が産まれる直前にも関わらず、謎の青年とハイタッチをした直後に警備員を次々と射殺してしまいます。
デール刑務所長は、道端でたまたま見かけた謎の青年を幽閉したのは、神の声に導かれたからでした。
ヘンリー・ディーヴァーの養父も、「神の声」が聞こえていたのですが、それを息子に強要していたのが、少年ヘンリーの反感を生み出すことになってしまいました。
真冬の凍てつくキャッスルレイクで不可解な帰還を果たした少年ヘンリー・ディーヴァーは、父親殺害未遂をしたヘンリーとは別人でした。彼は、その後の人生で偏頭痛に悩まされるのですが、それは「神の声」そのものでした。
謎の青年を善意で刑務所から救い出した張本人である、弁護士のヘンリー・ディーヴァーが、物語の結末では、その謎の青年を監禁する役割を引継ぐことになります。
ヘンリー・ディーヴァー
しかし、なぜそもそもヘンリーは父親殺しに及んだのか?
それは、犯行の現場であるキャッスルレイクが、たまたまパラレルワールドへの入り口だったので、そこから悪の霊気の影響をモロに受けてしまったからではないでしょうか。
(これは『キャッスルロック2』で判明する内容ですが)キャッスルロックの悪魔は、400年前からパラレルワールドの入り口であるキャッスルレイクを利用して、さまざまな並行世界で悪を伝染させていたのです。
悪の伝染は、「スキスマ」と呼ばれるノイズ(雑音に聞こえる)を発生させて、それを聞いた人間を支配して悪行を働くように仕向けているようです。
そして、創造主である神は、悪魔に対抗するために、信仰を通じて「神の声」を人間に届けることにより、悪魔のパラレルワールドの移動を封印させていたのではないでしょうか?
謎の青年を監禁した元刑務所長デールも、それを看過したバンクポーン保安官も、ヘンリーの父が牧師をしていた教会の信仰深い信者でした。
「神の声」を聞いた人たちが、「悪魔」を幽閉する役割を引き継いでゆくのですが、その周期が一世代となる27年間、その引継ぎの境目で不可解な事件が発生するわけです。
27年後には、ヘンリーから息子にその役割が引き継がれ、そのときに再び悪魔が再臨し、また不可解な事件が繰り返されるのだと思います。
私は、このロジックこそが本シリーズの隠れたテーマではないかと確信しています。
4 恐怖を煽る演出
この謎の青年が持つ「悪」のパワーが、ハンパではありません。身の毛がよだつような怖ろしいパワーを持っているのです。青年に悪意はまるでなく、むしろ記憶を失った善人のようですが、彼が通り過ぎるだけで、周囲の人間は「生まれ持って備えている悪」を剥き出しにしてしまいます。
その青年が、通り過がりの家の中を覗き込むと、夫婦が赤ん坊を抱きながら息子の誕生日を祝っています。幸せ一杯の情景です。
ところが、青年が影からその様子を見つめていると、夫婦は急にお互いを罵り合い始め、赤ん坊は泣き叫び、ついには夫婦の殺し合いにまでエスカレートしてしまいます。
以下がこの戦慄のシーンです。
戦慄のシーン(第5話より)
カメラは青年だけを追っており、暴力シーンを一切見せることなく恐怖を増幅させる見事な演出だと思います。
5 『キャッスルロック』の世界観
前述のとおり、『キャッスルロック』は、『ツイン・ピークス』をはじめデヴィッド・リンチ監督の作品を連想させるシーンが多く登場します。『ツイン・ピークス』の「ブラックロッジ」と、『キャッスルロック』の「キャッスルレイクと」は、どちらもパラレルワールドへの入り口です。
パラレルワールドを通ってやって来る悪魔は、『ツイン・ピークス』では殺人鬼のボブであり、『キャッスルロック』では謎の青年です。
謎だらけの展開と、明確な説明なしにストーリーが進むのも同じですね。
その点では、『キャッスルロック』を楽しんで観るためには、あまり映画のディティールに理論的根拠を求めず、直感で感じるように鑑賞するのが正解だと思います。。。
また、コテージをお化け屋敷風のスタイルに改装して経営する夫婦が、(悪魔に誘発されて)宿泊客を惨殺してしまうシーンは、『ロスト・ハイウェイ』で妻をズタズタに惨殺してしまう主人公のシーンを彷彿させます。
『キャッスルロック』は、スティーヴン・キングとデヴィッド・リンチの世界観が融合したような、ミステリーホラーとしては異色の傑作ではないでしょうか。
6. 『キャッスルロック2』
2020年の2月には、待望の第2シーズン『キャッスルロック2』(2019年)が始まりました。現在(2020年4月)でも、WOWOWオンラインで視聴が可能です。
『キャッスルロック2』
『キャッスルロック2』は、なんと『ミザリー』の偏執狂アニーの若き日を綴った内容です。
『キャッスルロック2』はこちら↓です。
[キャッスルロック第2シーズンの衝撃] 『キャッスルロック2』が描く原罪と悪魔の再臨
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