以下の記事内容は、従来の転職サイトやメディアでよくある転職体験記とは全く異なります。
転職のススメでもなければ、警鐘でもなく、私自身の経歴の自慢話でもなければ、後悔話でもありません。
キャリアアップのためとか、給与アップのためとか、職場の人間関係が。。。という表層的な視点ではなく、個人のライフステージの変化に沿った転職、という切り口です。
私はこれまでかなりの回数の転職を経験しました。成功した転職もあれば、失敗した転職もありました。
振り返ってみると、大変な時期もありましたが、これまでのところ、つくづく幸運に恵まれた良い人生を送ってこれたと、自分の幸運に心底感謝しています。
自分の過去を意図的に正当化するつもりはないのですが、振り返ってみると、どの転職も自分にとってはそのときのライフステージに沿う道を選んだに過ぎません。
以下、企業名、転職条件など具体的な詳細は伏せていますが、すべて事実に基づいています。
1. 国内の転職事情
サラリーマンにとっては、かつてはタブーとされていた転職ですが、時代が変わり、もはや「年功序列」や「終身雇用制度」が崩壊し、勤務先への滅私奉公より「働き方改革」が奨励される時代です。総務省が2020年2月に発表した資料「統計トピックスNo.123 増加傾向が続く転職者の状況」によると、2019年の転職者数は351万人と、過去最多(02年以降)となり、就業者に占める転職者の割合は、比較的若い層で近年顕著に伸びており、壮年層でも水準は低いながら過去最高を記録しました。
転職者数および転職者比率の推移(総務省資料より引用)
このデータによると、15~24歳で転職者比率が12.3%、つまり24歳以下の社員の8人に1人は転職経験者ということになります。
また、45~54歳という働き盛りの年代でも、転職者比率は4.4%、25人に1人が転職をしているということになります。
(以下は総務省の報道資料からの引用です)
転職者について前職の離職理由をみると、事業不振や先行き不安などの「会社都合」により前職を離職した転職者は、リーマン・ショックの翌年の2009年に大きく増加しましたが、2013年以降は減少傾向で推移しています。
一方で、「より良い条件の仕事を探すため」は、2013年以降増加傾向で推移しており、2019年は127万人と、2002年以降で過去最多となりました。【図2】
前職の離職理由別 転職者数(総務省資料より引用)
(引用おわり)
このように、2008年のリーマンショック以降は、転職者の数や割合は、着実に増加しており、過去最高レベルを記録しています。
年代別の転職回数については、リクナビネクストの「転職回数が多いと不利?年代別の転職回数と採用実態」に詳しい解説があります。
(以下はリクナビネクストからの引用です)
2017年1~6月までに新規登録したリクナビNEXTの会員データを年代別に集計したところ、20代では76%が「転職経験なし」という結果となっています。30代になると「転職経験なし」の割合は一気に減少し、半分以上の人が転職を経験。4人に1人は「転職1回」、そして約3割の人が「2回以上の転職」を経験しているという結果になりました。
年代別転職回数データ(リクナビネクストより引用)
40代、50代になるとさらに転職経験者は増加します。50代になると66%が転職経験者となり、1社のみの就職経験を持つ人は少数派となっています。
(引用おわり)
日本と海外の転職事情の比較は、エンワールドの「海外の転職事情は?日本と海外の雇用の特徴や転職に対する考え方を解説」に詳しい解説があります。
先進国の平均勤続年数の比較(データブック国際労働比較2017)では、日本が、イタリアに次いで勤続年数が長いことがわかります。
平均勤続年数(データブック国際労働比較2017)
アメリカは極端な例ですが、国際的に比較すると、日本は終身雇用がまだまだ主流であることがわかります。
2. 生涯賃金の罠とは
転職には必ずコストが発生します。人間関係の再構築、企業文化への適合、挨拶やメールアドレスといった手続き、新しい社内システムへの適合、などなど。。。
場合によっては、転職によって一時的に収入が減ることもあるかもしれません。
そのコストに見合うだけの(有形無形の)リターンが長期的に見込めるかが、転職の判断となるのかもしれません。
特に、転職と収入の関係は、多くの人にとって最も関心のあるテーマだと思います。
良く引き合いに出されるのが、生涯賃金という考え方ですね。
「サラリーマンの生涯年収は2億円!?平均値と中央値の違いも解説」の記事によると、サラリーマンの生涯年収は2億円とも2.5億円とも言われていますが、生涯年収は、出身大学や業種によって大きく左右されます。
この記事によると、テレビキー局、大手商社、大手損保などは、平均生涯賃金が5億円を超えているそうです。ちょっと驚きますね。
国内系企業、外コン、外銀、弁護士、医師、起業家など職種別には、「生涯賃金10億円を達成するためのキャリアプランを考えてみる」という記事に詳しく解説があります。
しかし、就職や転職に関して、生涯賃金という考え方は、割引現在価値という金融の基本を勘案しなければ、意味がありません。
人生のライフステージによって、必要なお金というものは大きく変わります。
お金をそれほど必要ないステージで、退職金のようなまとまった収入があってもあまり意味がなく、逆に、どうしてもお金が必要なステージでは、たとえ少額の収入増であっても重要になるでしょう。
生涯賃金にこだわって自分のキャリヤや就職先/転職先を選ぼうとすると、大きな罠に陥ってしまいます。
生涯賃金という収入面にだけ囚われずに、転職によって、自分自身や家族にどのような影響があるのかを予測することが大切だと思います。
3. 転職とは何か?
では転職とは何でしょうか?転職 = 会社を変わるという意味は当たり前なのですが、そもそもなぜ「転職」が人生の一大事なのでしょうか?
人生のなかで、生活に根差したものを変える(もしくは変わる)ことは、仕事以外にもたくさんあります。
学校、住居、人付き合い(友人、異性)、自家用車、配偶者、アイデンティティ(宗教、所属団体、国籍)などなど。。。
人によってはどれも人生の一大事かもしれませんが、(離婚や再婚は例外として)、最初に選んだものが人生を通して変わることがないというほうがむしろ珍しいのではないでしょうか?
ではなぜ、最初に就職した仕事先が変わることだけが、なぜ「転職」と呼ばれて特別視されるのでしょうか?
戦後の高度成長期時代であれば、特定の企業(組織)に生涯変わらず所属して仕事をすることは、国家レベルでの経済成長を支えるうえで最も効率的であったかもしれません。
しかし、ライフスタイルが多様化し、急激な経済成長の見込みも必要性も薄い現代社会において、仕事先を変える(もしくは変わる)ことは、むしろ必然的なことではないかと私は考えます。
特に、結婚や子育てなど人生のライフステージが変化する過程において、その時々で最も自分に合った仕事や職場を選択することは、「職業選択の自由」として憲法でも保証されている個人の権利です。
ある転職コンサルタントの記事をネットで見つけました。記事のタイトルは「脱藩型か? 逃亡型か? 「転職理由」が人生を左右する」とあります。
脱藩型か? 逃亡型か? 「転職理由」が人生を左右する|出世ナビ|NIKKEI STYLE
転職コンサルタントがこんなタイトルの記事を書いていること自体、転職の意味が歪曲されて伝わっている証拠だと思います。
転職は「脱藩」でも「逃亡」でもありません。
引っ越しや人付き合いが変わるのが、「脱藩」でも「逃亡」でもないのと一緒です。
引き合いに出した転職コンサルタントだけでなく、このような古い考え方は業界のあらゆるところに浸透しているようです。
「脱藩」とは、会社を藩に例えていますが、もし廃藩置県のようなことが起きたら、藩への帰属意識など何の意味もなくなります。
40年前の名門企業が今どうなっているかを考えれば、会社(藩)に人生を賭けることは、安定ではなくむしろリスクとなることがよくわかると思います。
キャリアアップのため、収入アップのため、職場の人間関係、勤務先の事情、家族の事情、などなど。。。転職の事情が人によって千差万別なのは当然ですが、それは、引っ越しをする理由が人によってそれぞれ異なるという話のレベルと何ら変わりません。
転職を例外的な行為として特別視するのではなく、ライフスタイルに応じて、誰でも自由に選択できる行動と考えれば、転職の回数や転職時の年齢など大した意味もないことがわかると思います。
こんな記事も見つけました。
転職回数は何回でイメージダウン?転職回数が多い人がすべきこととは|求人・転職エージェントはマイナビエージェント
これは、マイナビという、就職・転職・進学情報の提供や人材派遣・人材紹介などを主業務とする日本の大手人材広告企業の記事です。
確かに現実は、転職の回数で採否が決まることも多いかと思いますが、そもそも転職回数でその人の価値を判断すること自体がナンセンスです。
人と付き合うときに、相手の引っ越しの回数や時期を気にする人が果たしてどれほどいるでしょうか?
転職をするもしないも個人の選択であって、転職を特別視せず、ごく自然な人生のイベントと考えることが、すべてのスタートだと私は思います。
4. 転職の理由(目的)を前向きに考える
もう一つ記事を紹介します。5回以上転職した3人の体験談。転職しまくった結果、天職に出会えたか?
これは、業界を代表するリクナビの記事です。
転職経験者へのインタビュー記事なので、内容に問題があるわけではないのですが、記事のテーマが、「転職によっていつか「天職」と思える仕事に出会えるのでしょうか」(本文から引用)とあります。
転職イコール天職探しというのは、若い世代に限定した例外的なケースだと思います。
世の中にはむしろ「天職探し」とは無関係の転職のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか?
総務省の報道資料を読むと、むしろ、現在の「天職」を敢えて捨てて、家族や趣味などオフの活動を優先させるという、ワークライフバランスの是正のための転職が近年は増えています。
また、企業が経営方針を変えて、自分が「天職」として身を捧げていて事業が縮小・撤退されてしまった場合はどうでしょうか?
その会社に残って別の事業に籍を移すような配置転換をするくらいなら、「天職」を追求するために別の企業へ転職するほうが、よほど一貫性のある行動だと思います。
一生同じ会社にすがりついて、自分の「天職」が社内でコロコロと変わるよりは、自分の信じる道を貫くために転職をするのは理に適っている行動だと思います。
我が身を振り返ると、転職の理由(目的)はそれぞれ大きく異なりますが、「どうしてもやりたいことが社外にあった」というケースが一番多かったです。
他には、「収入アップのため」「業績の低迷により活躍の機会を失った」「企業の方針変換に賛同できなかった」など。
短い期間で退社した「転職先を明らかに間違えた」という失敗もありました。
またまたネット記事ですが、もうひとつ。
年間1000人の転職者に相談される僕が見た成功と失敗のケース〜転職BARマスター、ホンネの就職相談
この記事は個人の方が書いたものですが、以下の仕事に不満を感じる4つの要素から、転職の成否を議論しています。
1. お金に不満がある
2. 労働時間に不満がある
3. やりがいに不満がある
4. 職場の人間関係に不満がある
転職という行為の動機がすべてネガティブな要素になっており、私は違和感を覚えました。
対照的に、「転職活動中は「自分は何のために働くか」と考えるべきではない理由」という記事には、
転職には「3つの価値観」が影響すると考えます。「転職観」「職業観」「人生観」の3つです。
とありますが、私もこの考え方に賛成です。
繰り返しになるのですが、転職というイベントは、人生のライフスタイルの変化に合わせて仕事を調整するイベントなので、ネガティブよりポジティブな気持ちで向き合うのが本来の姿ではないでしょうか?
住居、人付き合い、自家用車などなど、変える(もしくは変わる)場合には、不満があるから変わるというより、新しいライフスタイルに適合したものに自然に乗り換えるということです。
その場合、これまで付き合ってきたヒトやモノに対しては、必ず感謝の気持ちを抱くのが自然だと思います(喧嘩別れした場合などは別でしょうが)。
転職も同じで、退職する会社には、自分を育ててくれたという感謝の気持ちを決して忘れてはならないと思います。
「会社を辞める」というよりは、「会社を卒業する」という表現のほうが合っているかもしれませんね。
5. 私の略歴
私は、父親は大手企業のサラリーマン、母親は専業主婦という、ごくありふれた中流家庭で生まれ育ちました。理系の大学を卒業後、大手企業のサラリーマンとして社会人生活をスタートさせました。
ちなみに、私は、公認会計士などの専門職ではなく、エンジニアとしても特殊な資格は何も持っていません。
新入社員として入社した当時は、父親と同じように、定年退職まで一生涯同じ会社に勤めるのが当然と考えいたので、まさか、自分が転職を繰り返す人生になるとは夢にも思っていませんでした。
私は2020年現在で50歳をとっくに過ぎている中年オヤジですが、初めての転職は29歳のときでした。
以来、転職を繰り返すキャリアを歩み続け、30代、40代、そして50代と、それぞれの人生ステージで転職を何度も経験してきました。
前述の転職回数データによると、50代で6回以上の転職回数が2%ですから、その上位?2%に私もしっかり入っています(笑)。
ちなみに、同じ会社での在籍期間は最長で8年でした。
エージェントの紹介で転職したのは、初めての20代の転職のときだけで、あとの転職はすべて知り合いからの誘いや紹介(いわゆる口コミ)でした。
これまで就職した先は、日本を代表する大企業、外資系企業、中小企業、ベンチャー企業など、さまざまなタイプの企業です。
自分で言うのもなんですが、これほどバリエーションに富んだ転職経験をしているのは稀有な存在だと思います(苦笑)。
6. 転職を迷っている方へ
転職エージェントに転職について相談を持ち掛けると、「できれば転職はしないほうが良い」と言われることが多いと思います。現在の勤務先が世間で認められている「一流企業」や「大企業」であればなおさらです。
私も最初の転職のときは、エージェントに散々転職を思い直すように説得されました。
あれから20数年が立ちました。。。
振り返ってみると、転職に踏み切った当時の判断に間違いはなかったとつくづく思います。
たまたま転職が成功したといえばそれまでですが、当時の私には「転職」に対して一切の迷いがありませんでした(若気の至りでもありましたが)。
その後の転職でも、一貫して迷いは一切ありませんでした。
なぜなら、どの転職も、その当時の自分の人生のステージで「転職をするのが当然の選択で、会社に留まる理由がなかった」からです。
私は、転職に少しでも迷いがある場合は「転職はしないほうが良い」と思います。
ただし、巷に有触れている転職関連の情報、つまり、マスコミや転職エージェント、転職業界が発信している情報は、ほとんど何の役にも立たないと思ったほうが良いでしょう。
そのような情報の渦に巻き込まれないようにして、自分自身の置かれた唯一無二の状況のなかで、転職という選択が果たして自分のライフステージに沿っているかどうかを見極めるのが大切だと思います。
私が最初の転職でお世話になった転職エージェントの方とは、長いお付き合いで、今でも懇意にさせていただいています。
しかし、前述したとおり、その後の転職は、知り合いからの紹介やご縁をいただいたものばかりです。
採用する側からの理論では、人材の市場価値というものは、自己診断ではなく、あくまで採用側に客観的に評価されて決まります。
その点でも、知り合いの紹介というのは、採用する側とされる側のマッチングの可能性が高いというメリットがあると思います。
また、知り合いからの紹介の場合、エージェントと違って、人間関係のしがらみに束縛されるのではと心配するかもしれませんが、紹介者の顔をつぶすようなことがない限り、転職先でしっかりと実績を挙げて組織に貢献ができれば、その先、紹介された企業を退職するようなことがあっても何ら問題にはなりません。
もちろん、所属する組織に忠誠を尽くして生涯同じ企業で働くというスタイルも、立派な理念であり、それが正しい筋と考える方も多いでしょう。
個人的には、労働力を提供してその対価を得るサラリーマンという身分は、契約社会で意図的に作られた仕組みなので、そこに家族や地域コミュニティと同じような帰属意識を適用するのは限界があると思います。
「組織を見て仕事をするのではなく、天を見て仕事をしなさい」
これは、かつての上司が、私の結婚披露宴のときに、祝辞として贈ってくださった言葉です。
天を見て仕事をするのに最適な組織を選ぶということが、転職なのかもしれませんね。
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