映画『エレファント・マン』は、デヴィッド・リンチ監督の作品です。
「エレファント・マン」
「エレファント・マン」(1980年)はデヴィッド・リンチ監督の第2作目。19世紀のロンドンで実在したジョン・メリックという先天的に重度の障害を持つ青年の実話の悲劇をベースにしています。アカデミー賞8部門にノミネートされた作品です。
私がこの映画を初めて観たのは確か中学生のときだったと思います。多感な時代だったのでもちろんえらく感動した記憶があります(当時は何を観ても感動しましたが)。今回のレビューを書くのに30年ぶりに観直しました。
容姿が醜いという理由だけで人々から虐待されてきた心の美しい青年の人生の悲劇を美しく描いています。リンチ作品としてはかなりストレートでわかりやすい内容、主人公のジョンへの感情移入も容易です。
「エレファント・マン」より
ではリンチはこの作品で何を伝えたかったのでしょうか?
リンチ作品では共通したメッセージがこの映画でも語られます。
「この世は不思議な出来事であふれている」
ジョンがこれまで受けてきたひどい仕打ちについて、医師たちが「彼がこれまで歩んできた人生は我々が決して想像もできないものだ」と言うシーンがあります。
最も過酷で絶望的な人生を耐え忍んできたジョンが、神への深い信仰を捨てず、亡き母への感謝を心に、最後には「自分の人生は満たされています、なぜなら私は愛されているからです」と答える姿からは、ジョンはすべての登場人物(外科医や舞台女優も含めて)よりもむしろ幸福な人生を送ったのだと悟ることができます。
ジョンがおそらく息を引き取って天に召された直後、満点の星空が画面に映し出されますが、これこそ、リンチが「この世(宇宙)は不思議な出来事であふれている」というメッセージを象徴しているシーンではないでしょうか。
ジョンを助ける外科医と院長
エリックが大聖堂の模型を完成させた夜、普通の人間らしくベッドに頭を寝かせる(それは死を意味するのですが)ときに、背景に流れるメロディが、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」だということに初めて気付きました。この曲は、ベトナム戦争を描いたオリバー・ストーン監督の名作「プラトーン」で印象的に使われていました。映画で効果的に使われたのは、実は「エレファント・マン」が先だったんですね。
バーバーの「弦楽のためのアダージョ」
ジョンの部屋の壁にかかる「眠る人」
その後のリンチ作品に見られるような前衛的・実験的な要素は乏しいものの、ヒューマンドラマとしては傑作だと思います。
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