映画『インランド・エンパイア』:難解過ぎて理解不能なデヴィッド・リンチ監督の問題作

インランド・エンパイアは、間違いなくデヴィッド・リンチ監督の作品のなかで突出して難解な作品です。

「インランド・エンパイア」

「インランド・エンパイア」が発表されたのが2006年、それ以降デヴィッド・リンチはメジャーな映画を制作していません。

「マルホランド・ドライブ」も難解な映画でしたが、「インランド・エンパイア」の難解度はその比ではありません。たぶん一生わからないと思います。ストーリーは、4つの世界(それとも5つか?)が同時並行的に進行します。

ハリウッドの女優ニッキーの実生活、ニッキーが演じる映画の役柄、ポーランドのロスト・ガール、そして謎のウサギ人間、これらが時系列もバラバラに次から次へと現れるのだから、ストーリーを理解しろというほうが無理ですね(笑)

タイトルの「インランド・エンパイア」とは、カリフォルニア州南部の郊外地区を指す言葉です。映画のなかでもマフィア風の男が「彼はインランド・エンパイアだとか何とか言って消えた」と話すシーンがありますが、映画自体の舞台がインランド・エンパイア地区というわけではないようです。

不穏な音楽とともにタイトルが不気味に現れるオープニングは絶大なインパクトがあります。もうこれだけでデヴィッド・リンチワールドにどっぷり浸れます。

「インランド・エンパイア」 のオープニング

例によって「謎解き」のサイトは沢山あり、いろいろな解釈が施されていますが、どれが正解というのはなく、あくまで観る側の感性に委ねられているところがこの作品のスゴイところだと思います。

ちなみに私の解釈は、「ある女優(ニッキー)が役柄に没頭するあまり、現実と仮想の区別がつかなくなってしまい、精神的に崩壊する過程を、オリジナル映画の主演をやったロストガール(撮影中に殺された)本人の視点から観た映画」ではないかと思います。

ウサギ人間との関係や、ニッキーの公私の境や、たびたび現れる娼婦などがどういう関係なのかは何度見てもサッパリなのですが、2007年度全米批評家協会の実験的映画賞を受賞したということから推測するに、脚本は怖ろしく手の込んだつくりになっているのではと思います。

主役のニッキーを演じたローラ・ダーンはまさに怪演、決して美人でもない彼女のアップが延々と3時間以上も続くので、正直辛いものがありますが、おそらく一生かけても解けない謎の映画ということでリピートして観る価値は高いのではないかと思います。

ちなみにローラ・ダーンはリンチ作品の常連で、過去には「ブルーベルベット」や「ワイルドアットハート」で主役級で出演しています。往年の若さからすると明らかに年を取って中年に差し掛かり、若さでは勝負できない年齢というのは、この映画の俳優ニッキーと共通するものがあり、そういう意味ではまさに迫真の演技となっているわけです。

最後のほうに登場する裕木奈江もなかなかの味を出しています。たどたどしい英語がまたリアルです。結構長いセリフを任されているのですが、キレイな女友達が体を売って身もボロボロで見舞いに行くのにバスがどうしたこうしたと会話はメチャクチャ、それを腹にドライバーをぶっ刺されて瀕死のニッキーが「はあ?あんた一体何話してんの?」というすっとボケた表情でずっと聞いているという実にシュールな場面です。

私はストーリーの解釈は最初から放棄して、映画の雰囲気だけを楽しんで観てきましたが、こちらのサイトのように、「インランドエンパイアを観た」というブログを1年以上に渡って100回以上も投稿を重ねている方もいます。


デヴィッド・リンチ監督「インランド・エンパイア」は、興行収入的には大失敗となりましたが、その独特の世界観は一見の価値があります。


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