最近バルトークの弦楽四重奏曲(全曲)にどっぷりとハマっています。
ベーラ・バルトーク
きっかけは、Apple Musicのサブスクリプションでした。
クラシック音楽のレパートリーを増やそうと、作曲家のABC順に聴いたことのない作品を選んだところ、Bのバルトークで、この弦楽四重奏曲に巡り合ったのです。
弦楽四重奏曲なんて、クラシック音楽のなかで最も興味のないジャンルだったのですが。。。
リストにたまたま出てきた、フェルメール弦楽四重奏団の全曲集をダウンロードして聴き始めたら、耳ざわりな不協和音のオンパレードにも関わらず、その極めて独創的なメロディと展開にすっかり魅了されてしまいました。
フェルメール弦楽四重奏団
現代音楽にここまで魅せられたのは、高校時代のストラヴィンスキーの「春の祭典」以来です。
0. バルトーク 弦楽四重奏曲
バルトークの作品といえば、私はこれまで「管弦楽のための協奏曲」(通称オケコン)と「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」(通称弦チェレ)くらいしか馴染みがありませんでした。
少し古いですが、以下のショルティの名盤を良く聴いています。
バルトークの代表曲は、他には「ピアノ協奏曲第3番」と「ヴァイオリン協奏曲第2番」などがあります。
(これは後で知ったのですが)バルトークの弦楽四重奏曲(全6曲)は、クラシック音楽の分野では、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に並ぶほどの傑作と言われています。
バルトークの弦楽四重奏曲は、どれも不協和音バリバリで、どうひいき目に考えても、この曲を愛聴していると言ったら、かなりの変わり者に思われるだろうという作品です。
しかし、複雑怪奇でありながら、奇跡的な調和を保っているメロディラインとその進行は何度聴いてもエキサイティングそのもの。。。
仕事の合間や、寝る時のBGM(!)にも、バルトークの弦楽四重奏曲は今や欠かせないアイテムになりました。
いやはや、このようなユニークな曲を生み出した作曲家ベーラ・バルトークの天才ぶりは想像を絶するものがありますね。。。
ベーラ・バルトーク
第1番から第6番までどの曲も聴き応え満載ですが、第3番と第5番が特に気に入っています。
1. 第1番
第1番は、3つの楽章から構成されていますが、楽章の間は切れ目なく続けて演奏されます。演奏時間は約30分。
第1楽章は、哀愁をたたえた静かな旋律で始まり、いきなりバルトークワールドに引き込まれます。
BARTÓK — Quartet No. 1, Op. 7
不協和音の陰鬱でありながら不思議に美しい旋律が、時に激しく高揚を繰り返しながら展開します。
第2楽章は、第1楽章から途切れなく静かに始まりますが、やがて不穏な音調に支配され、ヒステリックに盛り上がっていきます。
どう控えめに言っても、調和の崩れた醜いアンサンブルなのですが、なぜか聴いていて神経を逆立てることなく、聴き心地が良いのはどうしてでしょうか?
第2楽章が静かに終ると、やや空白があったのち、この曲のメインとなる第3楽章が始まります。
絶望感からの刹那的な感情を表現したかのような旋律が続き、胸が苦しくなってしまいます。
まるで悲劇的なドラマシーンのBGMのような。。。
テンポも変幻自在、緩急せわしなく忙しいのですが、中盤からやや落ち着いたリズムで進行します。
低音のリズムが刻まれて、その上に高音のヴァイオリンが戯れるようなこの終盤5分間が第1番の一番の聴き所ですね。
2. 第2番
正直、私は苦手な曲です。
演奏時間は約28分。
第1楽章は、第1番と同様に哀愁を帯びた旋律で始まりますが、悲壮感というより、緊張感が支配しているでしょうか。
ハンガリー民謡風の旋律がモチーフされているようですが、緊張感からか聴いていて疲れます。。。
第2楽章は、何かの事件発生という感じでスタート。
Accord Quartet plays Bartok's 2nd string quartet, 2nd movement
民謡色が一層強まります。
弦楽器演奏のスリリングな展開が楽しめます、が、何となく消化不良であっけなく終わります。
第3楽章は、無調の前衛的な旋律でスタート、おどろおどろしい感じですが、第1番のようなヒステリックな盛り上がりはなく、終始静かなまま低弦のピッチカート2回で何となく終わってしまいます。
うーーん、私にはこの曲の良さがわかりません。
3. 第3番
出ました!第5番と並んで私のお気に入りの曲です。
演奏時間は約15分。緩-急-緩-急という4つの部で構成される単一楽章です。
わけのわからない導入部からいきなり引き込まれてしまいます。
そして。。。第2部のアレグロ(時間は5分30秒くらい)がかなりカッコイイです!
Bartók: String Quartet No. 3, BB 93, Sz.85 - II. Seconda parte. Allegro - attacca:...
第2部の導入部は、ストラヴィンスキーの春の祭典の第二部の変調するシーンを彷彿とさせます。
リズミカルな不協和音の響きが耳に心地良い!!!
この快感度に共鳴できる方は、もはや重度のバルトーク弦楽四重奏曲中毒ですね(笑)
第3部は静かにニョロニョロと気色悪く進みます。嵐の前の静けさのように。。。
そして。。。第3番のハイライト、第4部のコーダがスタートです!
Bartók: String Quartet No. 3, Sz. 85 - 4. Coda (Allegro molto)
このコーダは2分くらいと非常に短いのですが、聴き応え満点、クラシック音楽ってこんなスリリングでしたっけ?
終わり方も「ジャジャジャジャーン」という感じでカッコイイです。
4. 第4番
おそらくバルトークの弦楽四重奏曲全6曲中、音響的には最も醜い作品です(笑)
演奏技巧上、弦楽四重奏曲中屈指の難曲(Wiki)だそうで、演奏時間は約23分です。
第1楽章は、この全曲集のなかではそれなりに普通です(笑)
第2楽章から徐々にヤバくなります。いきなり海の中の反響音のようなこもった音に圧倒されますが、それは、宇宙マイクロ波背景放射のようにも聴こえます(笑)
第3楽章、前楽章が異常なので、なんだか超マトモな音楽に聴こえてしまいますが、油断は禁物。
中盤では各楽器のソロパートが入れ替わり立ち代わりで不穏な感じです。楽器の調律が狂ったような旋律で静かに終了。。。
そして。。。ピッチカートが世界を支配する第4楽章に入ります。こんな不穏なピッチカート聴いたことがありません。。。。何でも、より強く弦を引っ張って指板に打ちつける「バルトーク・ピツィカート」(Wiki)と呼ぶそうです。
そして。。。全曲集のなかで最も過激な第5楽章に突入~!
これは阿鼻叫喚としか言いようがない、極めてアクの強い民謡の旋律に乗って、弦楽器がまるで狂った暴走機関車のようにノイズを量産します。
この楽章が大好きという人がいたら、是非お会いして話を伺ってみたい(笑)
YouTubeのリンクを貼っておきますので、ご興味のある方は是非。。。
Béla Bartók - String Quartet No. 4 [5/5]
だが一方、この第5楽章だけでも、さまざまな四重奏団の演奏を比較試聴したらメチャクチャ面白そうです。
比較試聴、いつかやってみよう。。。
以上、拷問のような第5楽章でした。
5. 第5番
おそらくバルトークの弦楽四重奏曲全6曲中、最も評価が高く、最高傑作としてあげられることの多い第5番。
私も第3番と並んで一番気に入っています。
演奏時間は約30分です。
第1楽章の序奏部の「ジャジャジャジャーン」という不協和音バリバリのカッコよさで、いきなり虜になってしまいます。
この楽章は、旋律にドラマティックな「物語」を感じるんですよね。
「物語」の存在が、同じような抑揚の激しい第1番との違いでしょうか。。。
しかも、不協和音の連続のなかにもしっかりとした軸が貫かれているような。
第2楽章は、お化け屋敷のような始まり。。。もう何が出て来ても驚きませんが(笑)
しかし、ここで大きな発見が!
開始1分30秒くらいからの旋律が、デヴィッド・リンチ監督の映画「マルホランド・ドライブ」のラストシーンで流れるBGM(Love
Theme)にソックリなんです。
これはもう、デヴィッド・リンチ監督がこの曲を知っていて、バルトークからモロに影響を受けたとしか考えられません。
「マルホランド・ドライブ」から"Love Theme"
上の"Love Theme"の2分15秒くらいからの旋律と、下のバルトーク弦楽四重奏曲
第5番 第2楽章の1分45秒くらいからの旋律をぜひ聴き比べてみてください。
バルトーク弦楽四重奏曲 第5番 第2楽章
どうですか?ソックリではありませんか?
どうしてこんな些細なことに気付いたかというと、私は、生涯1000本以上観た映画のなかで、「マルホランド・ドライブ」がベストオブベストの作品だからです。
[映画レビュー評価ランキング] 100点満点の生涯ベスト『マルホランド・ドライブ』ほか厳選作品の総まとめ記事
バルトークとデヴィッド・リンチ監督がこんなところで繋がるとは感慨深い。
。。。話を元に戻します。
第3楽章~第5楽章は、この全曲集のなかでも一番の聴き所です。
難しい音楽理論は良くわかりませんが、この第3楽章~第5楽章は、作曲技巧を凝らした超絶的な作品(Wiki)なのだそうです。
頭でわからなくても、心の感性だけで聴いても、なんだかプログレ(プログレッシブ・ロック)の構成美にも共通する点があるようで、メチャクチャ面白いです。
第3楽章の唐突な終わり方が特に気に入っています。
第4楽章はボルテージが高いのですが、旋律は難しくて慣れ親しむことはできません。ラストの「ジャカジャカジャカ」というのは、骸骨のダンスを彷彿とさせます。
そして戦慄の第5楽章。。。戦慄が目まぐるしく変化する緊張感バリバリの楽章で、聴き応えありまくり。
アナタはこの7分間に耐えることができるか?
この第5楽章も、エンディングがさらっとしていてカッコイイ。
6. 第6番
バルトーク最後の弦楽四重奏曲。作曲された時代背景(第2次大戦の前夜)を反映して、ショスタコーヴィッチの作品のような、重々しい雰囲気に終始圧倒されてしまいます。
演奏時間は約30分です。
実は、この曲も第2番と同様、あまり得意ではありません。難解過ぎるというか。。。
第1楽章は、終始不穏な雰囲気を不協和音が奏でますが、決してヒステリーにはならず感情は終始抑え気味。
第2楽章は、引き続き不穏な雰囲気です。ただ、他の楽曲と比べて印象が薄いような気がします。
第3楽章の、緊迫のなかにも間の抜けたような旋律は、やはりショスタコーヴィッチの交響曲を連想してしまいます。ここには隠れた反戦のメッセージが込められているのかもしれません。
第4楽章は、終始静かな旋律が進行します。曲調は決して暴れることはないのですが、悲痛で物悲しげにつらつらと進み、消え入るように終わります。
6曲のなかでは一番常識的な作品だと思いますが、私はこの曲の深淵さがまだ理解できていないのかもしれません。。。
以上、バルトークの弦楽四重奏曲全曲のレビューでした。
また、フェルメール弦楽四重奏団の全曲集だけでなく、定番のアルバン・ベルグ弦楽四重奏団の全曲集(1987年のレコード・アカデミー大賞受賞盤)の情緒豊かな演奏も良いですね。
自分がこの期に及んで現代・近代音楽にハマるとは夢にも思いませんでしたが、こうなると、以前書いた「究極のクラシックアルバム名盤ベスト10」(ほとんどが古典派・ロマン派)も書き換えないといけないかもしれません。
[ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲] 陰鬱さに満ちた名曲揃い -
これを聴いて涅槃の境地に達しよう
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