最近Amazon Musicに加入したので、昔からのお気に入りアーティストのアルバムを気軽に聴けるようになりました。
エミネムもお気に入りアーティストの一人です。
エミネムは「全世界で2億2000万以上のアルバム&シングルを販売した、史上最も売れたアーティストの1人であり、史上最も売れたラッパー」(Wiki)です。
Kamikaze
エミネムの2018年のアルバム『Kamikaze』は、個人的には彼の最高傑作ではないかと思います。
ちょうど、エミネム自身の半自伝とも言える映画『8 Mile』(2002年)も最近観たので、以下にまとめてみました。
1. エミネム
(以下Wikiより)
アメリカ合衆国ミズーリ州セントジョセフ生まれ。高祖母は、1870年代にアメリカに渡ったスコットランドからの移民。その他ウェールズ、イングランド、ドイツ、スイス、ポーランド、ルクセンブルク人の祖先をもつと推測されている。
幼い頃から極貧の環境に育ち、父親に捨てられ、母親からはひどい仕打ちを受け続けてきた。12歳の時までカンザスシティとデトロイトを母親と共に2、3ヶ月ごとに転々と過ごす。友達もできず、仲間外れにされ、いじめられ、自殺未遂も経験する。悪環境の中、自然とアフリカ系アメリカ人層やヒップホップに親しむようになる。
14歳ごろから本格的にMCとして活動しはじめ、黒人優位のヒップホップ界において、白人ながらいくつものMCバトル・コンテストに挑戦する。中学校時代三回留年している。
(出典:Wiki)
グラミー賞を15回受賞し、アカデミー賞を1回受賞している。また、彼は10枚のアルバムをビルボード 200 で連続してナンバーワンでデビューさせた、唯一のアーティストでもある。
(引用おわり)
私がエミネムを知ったのは、もう20年以上も前のことです。
ヒップホップ(というか、当時はラップと呼ばれていました)といえば、Run
D.M.C.や、Naughty By
Natureあたりのメジャーアーティストくらいしか聴いていなかった当時、超早口でまくしたてるエミネムのラップは(彼が黒人ではなく白人ということもあり)衝撃的でした。
(これは余談ですが、私はハネムーンで訪れたカンクンでNaughty By
Natureのライブに新妻と一緒に現地参加しました)
しかし、グラミー賞を受賞した彼の実質的なデビューアルバム『ザ・スリム・シェイディ
LP(The Slim Shady
LP)』(1999年)をはじめ、シングルカットの曲は聴くことはあっても、アルバムを聴く機会はなかったと思います。
そんななかで、数年前に(確かSpotifyで)エミネムがフィーチャーされたLogicの
『Homicide』を聴いたときに、久しぶりにエミネムを聴いてみようと思ったのです。
Logic - Homicide ft. Eminem (Official Video)
ちょうど最近Amazon
Musicに加入したのをきっかけに、エミネムのアルバムを聴くようになりました。
2. 8 Mile
エミネムを聴くようになった同じ時期に、本人が主演した半自伝とも言える映画『8
Mile』(2002年)を観ました。
映画「8マイル(8MILE)」日本版予告
8マイル(8
Mile)とは、彼がラップ勝負で徐々に名を上げることになるステージの名前です。
(以下Wikiより引用)
主人公は通称“ラビット”こと白人青年ジミー。自動車産業も斜陽のデトロイトを背景に、黒人の文化であるヒップホップの世界で、彼はプロ・デビューを目指す。黒人たちの前で本来のラップの才能を発揮できないジミーの挫折&成長物語に加え、モデルを夢見る恋人や、男関係に自堕落な母、幼い妹をめぐるエピソードが、とことん切なく展開される。
圧巻は、クラブでのラップ・バトル。まるでボクシングの試合のように、音楽にのせた「言葉」によって相手を打ち負かす。
当然、スラングだらけだが、この種のシーンでは往々にして日本語字幕に違和感が生じる。しかし本作の場合、翻訳者の努力が感じられ、上出来の仕上がり。
(引用おわり)
『8
Mile』は、監督が『L.A.コンフィデンシャル』のカーティス・ハンソン、その『L.A.コンフィデンシャル』にも出演していたキム・ベイシンガーが、エミネムの母親役として好演していたりと、なかなか豪華なキャストで制作されています。
(出典:取り残された“最悪級のスラム都市”)
映画のハイライトは、米国格差社会を象徴するような、デトロイトの荒廃した街の様子と、そこで繰り広げられるラップのバトルです。
8 Mile Rap Eminem Battle
( 8マイルのラップバトル- 和訳)
ちょっと話が逸れますが。。。日本でも『フリースタイル・ダンジョン』や、それを引き継いだ『フリースタイルティーチャー』などのラップバトルTV番組が放映されています。
『フリースタイルティーチャー』は、ウチの次女と一緒に良く観ていたのですが、出演者の末吉9太郎なんかのラップを聴くと、それはそれで面白いです。
末吉9太郎ワールドへようこそ😜連敗続きの実力者を更に追い詰める?
名勝負連発の男性アイドルラップバトル
ただ、「おまえのその恰好、イケてないよ」とか相手を罵倒するのですが、メッセージは単なる個人をディスるだけの平和そのもの(笑)
どうしてもエミネムのような本場アメリカのラップのレベルと比較すると、もう圧倒的に見劣り(聴き劣り)してしまいます。
まあリアルタイムなんで一概に比較できませんが。。。つくづくラップというのは、米国に根差した文化なんだと思います。
映画『8
Mile』を観たり、エミネムのアルバムを聴くと、米国のヒップホップ音楽というのは、単なるカッコイイ音楽というだけではなく、と言われる60年代ビートルズやローリングストーンズから端を発した洋楽ポップス(これも古い言葉ですが)やロックの大衆音楽文化を根本から破壊し尽くしてしまうだけの圧倒的なパワーを感じます。
ヒップホップ音楽の圧倒的なパワーと魅力については、以前にも記事にしました。
映画『8 Mile』は、伝説のラッパーである2
Pac(1996年ラスベガスで射殺)の伝記映画『オール・アイズ・オン・ミー 』(2017年)と並ぶ、実話に基づくラッパー映画の傑作です。
3. kamikaze
前置きが長くなってしまいましたが。。。そのエミネムのアルバムの最高傑作ではと思うのが、『kamikaze』(2018年)
です。
豪華なゲスト参加で賛否両論を巻き起こした前作『Revival』(私は全く好きになれませんでした)の直後に突然リリースされたこの『kamikaze』は、原点回帰でエミネムらしい素晴らしいアルバムに仕上がっています。
Amazonのカスタマーレビュー評価も極めて高いです。
ラップやヒップホップ音楽なんて、単調でどの曲も同じにしか聴こえない。。。という方は、ぜひこのアルバムを聴いてみてください。
超早口でまくし立てる歌詞を理解しなくても、その音楽の多様性と聴いていて楽しくなるノリノリのカッコよさは格別です。
以下は、個人的に特に気に入っている曲です。
Eminem - Greatest ( Kamikaze )
『Greatest』:オーソドックスなラップソングですが、エミネムの真骨頂である韻を踏みつつまくし立てるラップが堪能できる曲です。
Eminem - Lucky You ( Kamikaze )
『Lucky You』:哀愁漂うなかにも怒りのパワーを秘めたラップソングです。Joyner
Lucasはドレイクのようなスタイルのラッパーですね。駆け引きもカッコイイです。
Eminem - Kamikaze ( Kamikaze )
『Kamikaze』:アルバム名のタイトル曲、個人的にはこのアルバムで最も好きな曲です。
Kamikazeはもちろん「神風」のことですが、英語で発音すると「カミカゼ」ではなく「カミカズィ」なんですよね。
I'm a Kamikaze, gonna
Smash into everyone, crash like an F-15
Damage already done, y'all shoulda let me be
Fack, fack on everyone
Fack, fack on everyone
若者の無鉄砲さから破滅に突き進んでゆくようなエネルギー炸裂の曲ですが、アメリカ格差社会が生み出したモンスターが手に負えない状態を表現しているように聴こえます。
この『Kamikaze』から次の曲『Fall』へトランジションするところの転調やメロディの使い方は、惚れ惚れしてしまいます。
Eminem - Fall ( Kamikaze )
『Fall』:哀愁エコーがかかる男性コーラスが印象的なスローバラードです。こんな変わった曲がさりげなく挿入されているのもアルバム『kamikaze』の素晴らしいところです。
そして。。。おそらくアルバムのハイライトであるラストの『Venom』。
Eminem - Venom ( Kamikaze )
『Venom』とは、マーベルコミックが原作で大ヒットした映画『ヴェノム』の主題曲です。
イントロからしてもうゾクゾクするような緊張感。。。ズッシリと響く重低音に乗ったサウンドは、メチャクチャカッコいいですね!
ヒップホップ音楽をハイエンドオーディオで聴く趣味の人はほとんどいないと思いますが。。。個人的にはかなりおススメです(笑)
映画『ヴェノム』について
映画『ヴェノム』予告
ヴェノムは、スパイダーマンの宿敵のダークヒーローの名前です。
日本ではあまり話題になりませんでしたが、米国では大ヒットした映画です。
この宣伝チラシを見たら、少なくとも彼女を誘って観に行く映画ではないのは明らか(笑)。
私は個人的にマーベルコミックのヒーロー映画には一切興味がないのですが、エミネムつながりで映画は最後まで観てしまいました。
いやはやこのダークヒーローの気持ち悪さといったら。。。(笑)
確かにエミネムは現代のダークヒーローなので、ヴェノムが描く世界観とは似ているなと思いました。
4. Music To Be Murdered By
エミネムの2020年発表の最新作『Music To Be Murdered By』(Deluxe
Edition)は、おそらく彼の最高傑作としてだけでなく、ヒップホップ音楽史上、最も重要な作品として永く歴史に残る作品になると思います。
Premonition - Intro [Official Audio]
ヒッチコックの同名の作品へのオマージュに溢れた本作品は、実質2枚組の大作で、あらゆる米国の社会問題への怒りや絶望を凝縮したような内容です。
『Music To Be Murdered
By』が傑作であるのは世間の高い評価からも間違いないのですが、(私のような)米国社会に身を置いていない日本人には、馴染みが薄いような気がします。
実際、Amazonのカスタマーレビュー評価を観ても、2500以上のレビューのうち、日本からのレビューは驚くほど僅か(おそらく10レビューもない?)です。
『No Regrets』という曲には、2017年のkodak Black『ZEZE』と同じく、"D.A. got
that dope"というラップで良く使われるタグ(掛け声)が挿入されています。
No Regrets (feat. Don Toliver) [Official Audio]
このタグは、シカゴ出身のプロデューサー/ソングライターのD.A.
Doman(ディー・エー・ドーマン)のものなんですね、どうでも良いネタですが。。。。
アルバムに収められている曲は、もはやラップがカッコイイとか、クールだとかいう次元を突き抜けて、絶望と怒りに溢れた暴力的なメッセージは聴くのもツライような作品のオンパレード。
ちょっと例えると、90年代前半にリリースされたGun's 'N' Rosesの古典的名作『Use
Your illusion』の21世紀版とでも言えるでしょうか。。。
70年代~90年代のロックは、間違いなく時代を反映する音楽の象徴でした。
レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ヴァン・ヘイレンなどなど。。。
ところが、21世紀に入ると、ハードロックやヘヴィメタルというジャンルは急速に衰退し、今や往年の見る影もなくなってしまいました。
衰退の理由はいろいろあると思いますが、個人的にはミュージシャンを筆頭にロック業界のハングリー精神が後退し、皆大人のロックに成り下がってしまったのが原因だと思います。
反骨精神が失われてしまったんですね。。。
ナイン・インチ・ネイルズに代表される90年代のインダストリアルロックは、反骨精神の最後の砦だったと思うのですが、それさえも今では役割を終えたような気がします。
若い世代の社会に対する怒りはどの時代にも普遍的なので、現代は、ロックに変わってヒップホップ音楽がその役割を果たしているのです。
エミネムも大成功したアーティストという意味では、もはやデトロイトの極貧など全く縁がないと思います。
しかし、こうしてデビューから20年以上経った今でも凄まじいまでの社会メッセージを叩きつけてくるのは、若い時の貧困や社会的弱者の屈辱感が、身に一生沁みついているからでしょう。
(出典:取り残された“最悪級のスラム都市”)
むしろ、『Use Your
illusion』のような時代は、現代の無差別テロや拡大する格差社会、社会の断絶といった惨状からすると、まだ牧歌的に思えるのかもしれません。
ヒップホップ音楽が米国の音楽界を席巻し、逆に「ベストヒットUSA」が流行っていた80年代の日本とは違い、日本で米国のヒップホップ音楽がまるでメジャーにならないのは、日本と米国の社会風土があまりにかけ離れてしまった(もちろん、米国のほうが悪化した)からだと思います。
なので、この『Music To Be Murdered
By』のような、曲間に無差別銃撃の銃声やTVアナウンサーの報道、子供を虐待する親のDVの生々しい肉声などが挿入された音楽作品など、日本人には馴染まないのかもしれません。
その点、『Kamikaze』は、そのような社会構造や歌詞が理解できなくても、エミネムの高い音楽性を気軽に楽しむことができる作品だと思います。
コメント