映画『悪魔はいつもそこに』(2020年)を観ました。
NetFlixオリジナルで独占配信中のトム・ホランド主演のスリラー映画です。
いやこの映画は凄まじかった。。。
1960年代アメリカの片田舎で繰り広げられるさまざまな悪行を、宗教を軸として生々しく描いた、まさに救いようがない映画です。
登場人物たちは、罪の意識や良心の呵責とか、そういう常識を超えて、独善的な信仰心から常軌を逸した行動に出ます。
しかし、この映画は、単に人間の邪悪を単に描いているだけでなく、人の性格や立場によって義が異なる結果、人間は誰でも「悪魔」(ルシファー)の世界に陥ってしまう危険性を鋭く問いかけてくるところが傑出していると思います。
作品を観た後の何とも言えない後味の悪さを感じるのはそのせいでしょう。
配給元はNetFlix。。。これほど質の高い映画を製作できるようになったとは驚きですね。
もはや、映画の求心力はハリウッドや劇場ではなく、NetFlixのような新興勢力の時代になりました。
以下、『悪魔はいつもそこに』のレビューを書き記します [注意:ネタバレ満載の内容です]
1. 映画『悪魔はいつもそこに』
あらすじ(Wikiより引用):
オハイオ州ノッケンスティフ。アーヴィン・ラッセルは自分とその家族を守るべく、亡き父にまつわるトラウマを克服しようとしていた。
詳細なあらすじはこちらの記事を参照ください。
そんなアーヴィンの周りに邪悪な者たち―強盗で生計を立てるカップル、腐敗した保安官、俗世の欲にまみれた牧師―が集ったとき、世にもおぞましい惨劇が引き起こされてしまう。。。
予告編
監督:アントニオ・カンポス
出演:トム・ホランド、ビル・スカルスガルド、ミア・ワシコウスカ、ハリー・メリング、ロバート・パティンソン、イライザ・スキャンレン、ヘイリー・ベネット、ジェイソン・クラーク、ライリー・キーオほか
2. 豪華なキャスト
本作は、主演のトム・ホランドをはじめ、ビル・スカルスガルド(ウィラード)、ミア・ワシコウスカ(ヘレン)、ハリー・メリング(ロイ牧師)、ロバート・パティンソン(プリストン牧師)、イライザ・スキャンレン(レノーラ)、ヘイリー・ベネット(シャーロット)、ジェイソン・クラーク(カール)と、今の映画界を牽引する豪華キャストが勢揃い。
トム・ホランド
これほどまでに豪華なキャストを揃えられたのは、NetFlixの潤沢な資金力と求心力のおかげでしょうか。。。
ウィラード役のビル・スカルスガルドは、スティーブン・キング原作の『IT』が一般的な代表作ですが、個人的には、テレビドラマシリーズ『キャッスルロック』(同じスティーブン・キング原作)で演じた謎の青年(悪魔)役が強烈な印象に残っています。
ビル・スカルスガルド
また、猟奇殺人鬼カップルのサンディ役には、ライリー・キーオ。彼女はユニークなサスペンススリラー『アンダー・ザ・シルバーレイク』にも出ていましたね。ちなみに彼女の祖父は、あのエルヴィス・プレスリーです。
ライリー・キーオ
しかし、主演のトム・ホランドは別格としても、この映画の登場人物で強烈なのは、プリストン牧師役のロバート・パティンソンの嫌悪感と、
鬼気迫る演技でロイを演じたハリー・メリングの2人ではないでしょうか?
ロバート・パティンソン
ハリー・メリング
原題は、The Devil All the
Timeなので、邦題はそのままの直訳になっていますが、見事に作品の内容を象徴している(近年には珍しい)適切な邦題だと思います。
本作はドナルド・レイ・ポロックが2011年に上梓した小説『The Devil All the
Time』(日本語訳は未出版)を原作としています。
DVDやブルーレイなどパッケージでは発売されておらず、Amazon
Primeにもないので、Amazonのレビュー評価はありません。
(以下Wikiより引用)
本作は批評家から好意的に評価されている。映画批評集積サイトのRotten
Tomatoesには156件のレビューがあり、批評家支持率は65%、平均点は10点満点で6.3点となっている。
サイト側による批評家の見解の要約は「『悪魔はいつもそこに』のストーリーは人間の暗部へと沈潜していくばかりで、鑑賞が苦痛に感じられる者もいるだろう。しかし、出演者たちの見事な演技のお陰で、その欠点は相殺されている。」となっている。
(引用おわり)
3. 映画の見どころ
舞台はオハイオ州の田舎町ノッケンスティフとコールクリークという名もない二つの土地。
時代背景は第2次世界大戦直後の1950年代から、ベトナム戦争初期の70年代にかけてです。
本作では、登場人物の心理状態をナレーションで解説する箇所が頻繁にあります。
個人的には、ナレーションを多用するのは、映画という映像芸術にも関わらず単一的な解釈に狭めてしまう恐れがあるのであまり好きではありません。
が、本作に限って言えば、ナレーションを多用するスタイルは例外的に成功しているのではないでしょうか。。。
とにかくアメリカの田舎町の貧乏度がハンパない。。。当然出てくるキャラも全て社会の最底辺に属する弱者ばかり。
しかし、彼らの貧しさは、祈りを欠かさない敬虔な信者として、豊かな心を持って生活しているように見えます。
実際、ウィラードの結婚相手となるシャーロット(ヘイリー・ベネット)は、食べ物を求めるホームレスにこっそりとダイナーの食事を渡したり、人々は助け合いながら暮らしています。
ヘイリー・ベネット
ところが、この神への深い信仰心が、絶望や不運をきっかけに、やがて原理主義的な過激思想や、猟奇的な妄想に繋がってゆくところが怖ろしいのです。
ウィラードは、シャーロットとの結婚と子供を授かったのを機に、家族を災いから守るため、何年も絶っていた神との会話を再開します。
慎ましい質素な生活だが、家族愛に包まれた田舎の生活。。。
ところが、シャーロットが癌に侵されてしまい、助かる見込みがなくなったことで、ウィラードの信仰心は過激化し、愛犬を殺して生贄に捧げるという凶行に出てしまいます。
やがてシャーロットは亡くなり、葬式の日にウィラードは自殺。
敬虔な信者が、神に裏切られたと悟ると、生きるという選択肢を自ら放棄して、悪魔(ルシファー)に魂を売り渡してしまったのです。
地域社会から孤立していたウィラードには、本当は周囲の助けが必要だったのかもしれません。
同じように、牧師に孕まされた上に裏切られたレノーラも、絶望から首つり自殺を図ります。
イライザ・スキャンレン
キリスト教では自殺は罪とされているので、敬虔深い信者だったウィラードもレノーラも、神に反旗を翻して、悪魔に魂を売ってしまったのです。
敬虔な信者が必ずしも善行を施すとは限りません。
「義に飢え乾くものは幸いだ」
奇しくも色情狂の牧師が教会で説教する文句が、登場人物すべてに共通しています。
問題は、その「義」の定義が、個人で極端に異なることですが。。。
牧師のロイに至っては、度が過ぎる修行の末、神からの啓示を受けたと勘違い、愛する妻を森でわざと殺害して蘇生を試みますが、失敗に終わり、あげくの末は猟奇殺人鬼カップルの餌食になってしまいます。
猟奇殺人鬼カップルのカールに至っては、ヒッチハイカーたちを平気で殺しまくり、そのシーンを写真撮影するときが、唯一神(この場合は堕天使ルシファー)を感じられる瞬間なのです。
ジェイソン・クラーク
犯罪者が人を殺すときに唯一神を感じるというのは、これまでも多くの映画に見られました。『セブン』『8mm』『ドラゴン・タトゥーの女』などなど。。。
そういえばニコラス・ケイジの『8mm』は、スナッフフィルムという、実際に殺人シーンを撮影したビデオが出てきましたが、本作品では、殺人シーンの写真でしたね。
現代社会の凶悪犯罪も、かつてのような誰にでもわかりやすい動機が減り、不可解なケースが増えているような気がします。
コーエン兄弟の『ノー・カントリー』では、殺し屋は信仰とは無縁でしたが、やはり、かつての常識では考えられないような動機で罪のない人々を殺しました。
映画『ノーカントリー』:血も凍るサイコ殺し屋を描いたコーエン兄弟製作のスリラー
その点、セバスチャン・スタン演じる汚職保安官など、口封じにローカルマフィアを殺したりと、犯罪者としては可愛いヤツに思えてしまいます。
主な登場人物のなかでは最後まで唯一生き残るアーヴィン(トム・ホランド)にしても、牧師をはじめ、短期間に4人も人を殺しているのです(一部は正当防衛であったにせよ)。
最後にヒッチハイクで居眠りをしている姿を見て、我々鑑賞している側はホッとするのですが、それは果たして現代の法制度社会において正しい感覚なのか??
アーヴィンは、ダークサイドに陥った周囲の反キリストに対して、聖戦を仕掛けていると解釈できます。
そもそも、この映画の登場人物の誰が最も邪悪で、誰が最も善良なのでしょうか?
プリストン牧師は確かにレノーラを死に追いやったかもしれませんが、それが問答無用に射殺されるだけの重罪だったのか?
牧師として人助けをしたこともあったかもしれません。
映画ではロバート・パティンソンの名演で、これでもかというほど嫌味が強調された役柄に徹していますが。。。
本作の隠れたテーマは、キリスト教と、イルミナティに象徴される反キリスト教の仁義なき戦いではないでしょうか?
映画を鑑賞している我々は、映画に登場する「悪魔に魂を売った」極悪人たちを見て、自分はそうはならないと他人事のように感じますが、果たしてそうでしょうか???
ダース・ベイダーのようにダークサイドに陥るのは意外に簡単です。そもそもキリスト教と、反キリスト教の一体どちらが絶対的なダークサイドなのでしょう。。。
いろいろな意味で、この作品を観終わったあとの後味の悪さは格別でした。
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