[ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲] 陰鬱さに満ちた名曲揃い - これを聴いて涅槃の境地に達しよう

 

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は、ずっと以前からブログにまとめようと思っていました。


しかし、いざ記事にしようと楽曲を聴き始めると。。。作品の救いようのない陰鬱さにエネルギーを吸い取られてしまい疲労困憊、ブログを書く気力を喪失して頓挫していました。


陰鬱ではあるものの、どれも名曲揃い。。。いや、ショスタコーヴィチの全作品のなかでも弦楽四重奏曲は特筆すべき傑作揃いといっても過言ではありません。


ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(出典:Wiki

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲にハマったきっかけは、Apple Musicのサブスクリプションで出会ったバルトークの弦楽四重奏曲でした。


バルトークの弦楽四重奏曲(全曲)については、以前ブログで紹介しました。


[バルトーク 弦楽四重奏曲 (全曲) の特異な世界にハマる] 不協和音が支配する圧倒的な緊張感


バルトークの弦楽四重奏曲にハマった次に、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲にハマってしまうのは、ごく自然な流れ 笑


Apple Musicのカタログにたまたま見つけたエマーソン弦楽四重奏団の全曲集をダウンロードして聴き始めたら、すっかりハマってしまいました。


エマーソン弦楽四重奏団


バルトークはアルバム2枚組でしたが、ショスタコーヴィチのほうはアルバム5枚組。



さすがに5枚組(8時間)をぶっ通しでヘビロテして聴く機会もないし、もしあったとしても精神的にも体力的にも持ち堪えられるとは思えません 笑


そこで、第1番から第15番までの全15作品のなかから、傑作と勝手に思っている5作品(第8番~第12番)をピックアップして紹介します。

0. ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲

ロシアの作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (1906-1975)の作品で最も有名なのは、おそらく交響曲第5番「革命」でしょう。


演奏される機会も多いし、最終第4楽章のテーマはテレビコマーシャルやドラマにも頻繁に使われています。


ショスタコーヴィチ 交響曲第5番ニ短調作品47《革命》 第4楽章 ショルティ

しかし、この第5番以外の作品となると、ショスタコーヴィチの作品として知名度の高いものはほとんどありません。


ショスタコーヴィチの交響曲は全15曲あり、特に後期の作品には傑作が多いものの、第5番以外の作品はほとんど聴かれていないのでは。。。?


私自身、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲というのは、これまで全くノーマーク、聴く機会もありませんでした。


以下はWikiからの引用です。


20世紀最大の交響曲作曲家として知られるショスタコーヴィチだが、大勢の聴衆を前に演奏される交響曲の作曲については常に共産党政府の批判にさらされ、自由な作曲活動は制限されなければならなかった。


一方、ショスタコーヴィチが生涯にかけて取り組んだもう一つのジャンルである弦楽四重奏曲は、聴衆の少なさ故か幸いに共産党政府の批判を逃れ、自由な作曲活動ができ、公には言えない自分の内面を表現したとされる。


全15曲の弦楽四重奏曲の中には、ユダヤの影響を受けた『第4番 ニ長調』(作品83)、自身のイニシャルである "D-Es-C-H"(DSCH音型)を音名に織り込んだ『第8番 ハ短調』(作品110)、ジャズの影響を受けた『第13番 変ロ短調』(作品138)など、ショスタコーヴィチの多様な作風をみることができる。


(引用おわり)


こちらの記事では、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を「旧約聖書」、バルトークの弦楽四重奏曲を「新約聖書」と呼ぶのに併せて、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を紹介しています。


ショスタコーヴィチの15曲の弦楽四重奏曲のなかでは、第8番が最高傑作とされているようですね。


ショスタコーヴィチの交響曲も同じですが、弦楽四重奏曲も、中期から後期の作品に傑作が揃っていると思います。


以下では、個人的な嗜好から勝手に、第8番、第9番、第10番、第11番、第12番をピックアップして紹介します。

1. 第8番

以下Wikiからの引用です。

弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 作品110 は、ドミートリイ・ショスタコーヴィチが1960年に作曲した弦楽四重奏曲である。

作曲者によって「ファシズムと戦争の犠牲者の想い出に」捧げるとしてあるが、ショスタコーヴィチ自身のイニシャルが音名「D-S(Es)-C-H」(DSCH音型)で織り込まれ、自身の書いた曲の引用が多用されることにより、密かに作曲者自身をテーマにしていることを暗示させている。

全15曲あるショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の中で、最も重要な作品である。

(引用おわり)

15曲の弦楽四重奏曲のなかで最高傑作と評されることが多い作品です。

個人的には、最もポピュラーな交響曲第5番「革命」の第1楽章~第3楽章に曲の構成や雰囲気がどことなく似ていると感じました。

第1楽章は、ショスタコーヴィチ独特の不穏な雰囲気で始まるショスタコーヴィチワールド。

冒頭の旋律は、ショスタコーヴィチ自身のイニシャルが音名「D-S(Es)-C-H」のDSCH音型です。



このDSCH音型は、彼のヴァイオリン協奏曲第1番、交響曲第10番、チェロ協奏曲第1番、ピアノソナタ第2番他、多数の作品中で出現するんですよね。

こんな旋律です。



Tシャツも売ってます 笑


第2楽章は、いきなりアレグロのハイテンポ。かなりカッコイイ!

DSCH音型が絡んで張り詰めるような弦楽器の駆け引きがスリリングです。

Shostakovich: String Quartet No. 8 in C Minor, Op. 110 - II
Escher String Quartet 

この楽章、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のなかでも一番のお気に入りです。

第3楽章は、第2楽章の緊張感を維持したまま展開します。気が抜けない。。。

室内楽曲って、モーツァルトやシューベルトのように大半はリラックスして聴けるものが多いですが、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲はそのスタイルの対極、聴く側に終始緊張を求められます。

第4楽章から終楽章にかけては、断片的なモティーフが現れては消え、そして終盤に向かって淡々と静かに終ります。

陰鬱ではあるが、わかりやすく、エンターテインメント性も兼ね備えた名曲だと思います。

2. 第9番

第9番は、よく第8番とセットで語られることが多いようです。それだけ名曲という評価なのでしょう。

演奏時間は約25分と長め。

第1楽章から第5楽章まで途切れることなく演奏されます。

しかし、やはりこの作品の白眉は最終第5楽章でしょう。

スリリングな展開で始まり、中間部ではピッチカートが多用され、ともすればショスタコーヴィチの交響曲を聴いているような錯覚を覚えます。

Shostakovich: String Quartet No. 9 - V. Allegro
Kontras Quartet

第5楽章、エンディングも文句なしにカッコイイ!

エマーソン弦楽四重奏曲のCDはライブ録音ですが、この作品と第12番だけは、なぜか聴衆の拍手で終わります。

3. 第10番

個人的には第8番と並んで好みの曲です。

演奏時間は約23分と長め。

第1楽章は、穏やかさのなかにも不穏を感じさせる相変わらずのショスタコーヴィチワールド。

第2楽章は、いきなり激しい旋律が叩き出され、装甲車両のようにゴリゴリと進みます。

Shostakovich: String Quartet No. 10 - II
Emerson String Quartet

この楽章もお気に入り。

交響曲の第8番、第10番、第11番あたりと共通する戦争の暗い影がここにも。。。

現在のウクライナ情勢とも重なります。

第3楽章は、一転、抒情的な美しい旋律で始まります。例外的にリラックスして聴ける楽章ですね。

第4楽章に入ると、抒情的な雰囲気から次第にコミカルで軽快な旋律に。。。交響曲第9番ほどおちょくってはいないが、それと同じような感覚。

が、ここで描かれているのは、コミカルさにシリアスさが混じって、「冗談では済まされないぞ」的なメッセージが伝わってきます。

この畳み掛けるような展開が素晴らしい。。。

最後は、第1楽章の旋律が回想されて穏やかに幕を閉じます。

ああ。。。やはりショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は良いなぁ。

聴くたびに新しい発見がある。

が、聴いていてかなり疲れるのも事実。。。

4. 第11番

構成は全7楽章ですが、各楽章は切れ目無しで演奏され、時間も16分程度と短め。

第3楽章から第6楽章までは流れるように進みます。

重い旋律で始まったかと思うと、ヴァイオリンがスルスルと主題を奏でて、そこに絡むような形で展開します。

第4楽章の緊迫したモティーフ、第5楽章の重々しいモティーフ。

それぞれのモティーフはシンプルでわかりやすいので、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のなかでは、とっつきやすい。

重厚長大な構成との対比にあるような、かといって珠玉の小作品というには深淵な作品。

最終の第7楽章も、これといった盛り上がりもなくスッと終わります。

5. 第12番

第11番までの作品と明らかに異なる、不協和音や難解な構成の曲。

序奏のような第1楽章は、喜怒哀楽が複雑に絡んだ人間の感情を表現しているような感じです。

そして。。。

続く第2楽章は20分近くとアンバランスに長いのですが、ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲のエッセンスがすべて詰まっているような楽章で必聴です。

中盤のヴァイオリンとビオラの駆け引きは聴き応え十分、しかしあっという間に次の主題に移ってしまい、感覚的に付いて行けない。

ヴァイオリンのピッチカートから始まる中盤からの展開は、緊張感に満ちた駆け引きが聴き応えあります。

が、それも大きく盛り上がることなく、別のモティーフに取って代わられ、最後は勇ましく締めくくられる。

なかなか一筋縄にはいかない作品です。

難解すぎるのが眠気を催すのか、私はこの楽章を聴きながら心地良く昼寝ができてしまう 笑

エマーソン弦楽四重奏団の全曲集はライブ録音なのですが、この12番(と第9番)は曲の最後に聴衆のブラボーの喝采がなぜか収録されているんですよね。

この喝采の音でいつも目が覚めます 笑

この楽章だけお気に入りに入れてヘビロテしているとは、あまり人には言えませんが。。。

Shostakovich: String Quartet No. 12
Jerusalem Quartet

以上、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のレビューでした。

今回紹介しませんでしたが、第13番から第15番の最晩年の3作品は、陰鬱さを超えてもはや涅槃の境地に入ったかのような深淵な作品です。。。

特に15番は、8番と並んで最高傑作とされることが多いです。

何度も聴いて良さを探したものの、私ごときの若輩者には咀嚼できませんでした。

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の第13番から第15番を愛聴している方がいらしたら、間違いなく涅槃の境地に達している廃人でしょう。

もし「好きなクラシック音楽ってなに?」と聞かれて、「バルトークとショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲」と答えるような人とは決して関わってはいけません!笑

ネットでのレビュー記事では「クラシックパーキングエリア」がとても参考になりました。

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲はどれも陰鬱と書きましたが、聴いて気分が落ち込むというより、素晴らしい芸術作品に出会えたという喜びのほうが大きいです。

ちょうど、ムンクの名画「叫び」をオスロで観たときに、美しい、と感じたのと同じ感覚です。。。

ムンク「叫び」(出典:Wiki)

バルトークの弦楽四重奏曲の記事でも書きましたが、自分が弦楽四重奏曲の作品を好んで聴くようになるとは夢にも思いませんでした。

これはまさにサブスクリプションサービスの恩恵ですね。。。。オーディオマニア的に音質にだけ拘っていたら弦楽四重奏曲とも縁がなかったかもしれません。

ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲、今回は何とか最後までブログ書き上げられた 笑


[ロシア革命とショスタコーヴィチ + フィンランド] 交響曲第11番「1905年」と第12番「1917年」を聴く

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