映画『NOPE/ノープ』:不気味な飛行物体を巡るジョーダン・ピール監督の異色作


ジョーダン・ピール監督の映画『NOPE/ノープ』(2022年)をAmazon Primeで鑑賞しました。


映画のジャンルはSFホラーですが、本作は単なる怖いだけのSFホラーに留まらない、奥の深い作品でした。

以下に所感をまとめました(注意:以下ネタバレ満載です)。

1. 『NOPE/ノープ』

(以下Amazonの商品説明より引用)

ジョーダン・ピール監督最新作!

ジョーダン・ピール監督

絶対に空を見上げてはいけない。

最悪の奇跡が起こる。

■アカデミー賞(R)受賞『ゲット・アウト』ジョーダン・ピール監督最新作!
『ゲット・アウト』でアカデミー賞(R)脚本賞を受賞したジョーダン・ピールが監督・製作・脚本を担当。
『アス』に続く待望の長編監督作第3弾!世界中から注目され、監督の名前で観客を呼べる数少ない一人でもある。

■今度は不気味な飛行物体の出現から始まる想像を絶する世界!
『ゲット・アウト』『アス』と不可思議な世界を描き、注目を集めてきたジョーダン・ピール。
今度は不気味な飛行物体が現れたことから始まる、想像を超えた世界が展開する。

■初登場でボックスオフィス全米No.1! Rotten Tomatoes批評家でも83%の好評価!
初登場でボックスオフィス全米No.1を獲得。本国の評論家より「いつも私たちを楽しませてくれる」「今年の映画の中で一番エキサイティングだ! 」と絶賛の声。
批評を集積するサイトRotten Tomatoesでは、批評家の83%から好意的評価を得ている

■実力派俳優が集結!
主人公には『ゲット・アウト』でアカデミー賞(R)主演男優賞にノミネートされたダニエル・カルーヤが再びタッグを組む。
他にも『ミナリ』でアカデミー賞?主演男優賞にノミネートされ、「ウォーキング・デッド」でブレイクしたスティーヴン・ユァンなど実力派俳優が集結している。

【ストーリー】
亡き父から、牧場を受け継いだOJは、半年前の父の事故死をいまだに信じられずにいた。
形式上は、飛行機の部品の落下による衝突死とされている。しかし、そんな“最悪の奇跡”が起こり得るのだろうか?
何より、OJはこの事故の際に一瞬目にした飛行物体を忘れられずにいた。
牧場の共同経営者である妹エメラルドはこの飛行物体を撮影して、“バズり動画”を世に放つことを思いつく。
やがて起こる怪奇現象の連続。それらは真の“最悪の奇跡”の到来の序章に過ぎなかった……。

【キャスト】
OJ・ヘイウッド:ダニエル・カルーヤ『ゲット・アウト』『ブラックパンサー』
エメラルド・ヘイウッド:キキ・パーマー『ハスラーズ』『バズ・ライトイヤー』(声の出演)
リッキー・“ジュープ”・パク:スティーヴン・ユァン『ミナリ』
エンジェル・トーレス:ブランドン・ペレア「The OA」
アントレス・ホレスト:マイケル・ウィンコット『ヒッチコック』「24 TWENTY FOUR リブ・アナザー・デイ」
オーティス・ヘイウッド・シニア:キース・デビッド『遊星からの物体X』『アルマゲドン』

【スタッフ】
【監督・脚本・製作】
・ジョーダン・ピール:『ゲット・アウト』(兼監督)『ブラック・クランズマン』(製作)『アス』(兼監督)
【製作】
・イアン・クーパー:『アス』
【撮影】
・ホイテ・ヴァン・ホイテマ:『ダンケルク』『TENET テネット』
【美術】
・ルース・デ・ヨンク:『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『アス』

(引用おわり)

映画『NOPE/ノープ』予告編

Amazon Primeの会員ならば無料で視聴できます。

2. 『ジョーズ』の空バージョン  

ジョーダン・ピール監督はインタビューにおいて、スティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』を挙げ、海への恐怖を、空でやりたいと話していたそうです。


偶然にも、数週間前に、次女と一緒に自宅で映画『ジョーズ』を観たばかりでした。

『ジョーズ』については、今さら説明は不要ですが、個人的には、生まれて初めて映画館で観た映画ということもあり、昔から格別の思い入れがあります。

娘と一緒に鑑賞して、改めて、人物描写の緻密さに感嘆したのと、船乗り役の名優ロバート・ショウの早逝が惜しまれる思いでした。

ロバート・ショウ

人間を喰うことに関しては、殺人マシーンのような人喰いザメは、その後の映画『エイリアン』にも通じるものがありますね。。。

映画『NOPE/ノープ』に登場する不気味な飛行物体というのは、実は、人喰いUFOなわけで、いつもは雲の影に隠れていて神出鬼没するところは、確かにジョーズに通じる恐怖があります。

そして、『NOPE/ノープ』は『ジョーズ』と同じく、このような人間の想像を超えた野生の生物の狩猟本能についても共通したテーマが背景になっています。

決して空を見上げて人喰いUFOを見つめてはいけない。

野生動物は、未知の相手と視線を合わすことを極度に嫌います。

映画に登場する馬もそうですが、クマとバッタリ遭遇したときも、(少なくとも一定距離離れるまでは)眼を逸らしてはいけないと言われていますよね。

ウチは元野生のインコを飼っているのですが、何年世話を続けていても、インコの眼を見つめると、怖がって逃げるか、逆に威嚇をしてきます。じっと見ることが愛情表現だとしても。。。

映画で登場するゴーディという名前のチンパンジー、TVドラマの撮影中に、突然共演者たちを襲う衝撃的なシーン。


犠牲になった若い女の子は、ゴーディの誕生日を心からお祝いしていたのにも関わらず。。。

ちなみにチンパンジーが人間を襲った事件というのは過去に実際に起きています。草食系のゴリラよりも、実はチンパンジーのほうが危険なんですよね。

Is Gordy's Attack In Nope Based On This Eye-Opening True Story?

野生動物にとっては、相手の眼差しが好意的か敵対的かは関係なく、自分のテリトリー内の目は、全てが攻撃対象(もしくは退却対象)にしかなりません。

本作でも、人喰いUFOは(ジョーズとは違って)人間社会に侵入して積極的に襲うのではなく、自分のテリトリー内に侵入してきた人間(や動物)を襲うだけです。

もちろん、野生動物は、飼い慣らすことは極めて難しい。

元子役のジュープ(アジア系俳優のスティーヴン・ユァンが好演)が、自ら運営するテーマパークで人喰いUFOを飼い慣らそうとして失敗するのもそのためです。


本作は、「見る」という行為についていろいろと考えさせられます。

ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』では、拉致された若い黒人が、品定めのために裕福な白人たちの好奇の目に晒されます。

映画『ゲット・アウト』

話が逸れますが。。。この『ゲット・アウト』はジョーダン・ピール監督の代表作とされていますが、ストーリーのネタは、あのシャマラン監督の映画『オールド』や、映画『キャビン』にも共通する、カルト組織による陳腐な陰謀がオチというのに過ぎません。


個人的には『NOPE/ノープ』のほうが遥かに完成度が高いと思います。

よく「相手の眼を見て話す」というように、目線を合わせることは信頼を構築する手段として語られることが多いですが、それは、同じ集団や社会階級に属する者同士という環境に限られます。

本作を観ると、人間が自然と共存していくためには、人間社会での接し方を決して常識と考えないことだと思います。

話がやや飛躍しますが、これは、地球外生物の異星人とのファーストコンタクトでも同じことが言えます。

映画『E.T.』に代表される多くのSFファンタジー映画では、エイリアンとのハートウォーミングな交流が描かれていますが、あんなことは起こり得ない 笑

映画『E.T.』

映画『遊星からの物体X』や、映画『エイリアン』や『ライフ』のような、敵対的な異星人のほうがおそらく現実でしょう。

映画『遊星からの物体X』

映画『ライフ』

そういう意味では、映画『E.T.』は、スティーブン・スピルバーグ監督の最大の非理論的な作品なのでは。。。?笑

地球外生命体と人類の関係については、ベストセラーSF小説『三体』でも詳しく掘り下げられています。

『三体』のテーマである猜疑連鎖の呪縛によると、異星人同士が友好関係を構築するよりも、相手を殲滅するのが常に正しいということになりますね。

3. 「奇跡」について

本作のもうひとつの特徴は、題名にもなっている『NOPE/ノープ』=「まさかそんなこと」=「奇跡」です。


ゴーディに突然襲われた少女の靴が片方脱げていて、奇跡的に床に直立しているシーン。

それをテーブルに隠れて凝視していたジューブは、成人してから自分の博物館に靴が直立している作品を展示しています。


この靴が意味するものは何でしょうか?

監督はこの謎解きのヒントを提供していますが、靴が床に直立しているという確率的な事象よりも、そのような個人の英知を超えた体験をするということに意味が潜んでいるようです。

空からの落下物(コイン)が頭に刺さって命を落とす。

雲のなかに潜んでいる未確認飛行物体が、実は人間を食べる生命体だった。

凶暴化したチンパンジーから間一髪で命が救われる。

古くは、聖書で伝えられているようなイエス・キリストの数々の奇蹟。。。

そのような奇跡(と思える事象)を目撃・体験することで、人生観までが変わってしまう。

英知を超えた存在に人間は盲目になってしまい、人喰いUFOを懐柔しようとしたジュープのように誤った判断を犯してしまうという警鐘なのかもしれません。

4.  総評

登場人物は、地球を救おうとして人喰いエイリアンと闘っているわけではありません。

売名行為や金儲けなど、あくまで私利私欲のため。。。このあたりが、生身のアメリカンらしくて実に面白いですね。

特に、OJの妹役のキキ・パーマーは、エイリアンのシガニー・ウィーバーも顔負けの大活躍で、主演のダニエル・カルーヤを完全に喰っていますね 笑

キキ・パーマー

また、個人的には、映画に挿入される音楽のセンスが良かったです。

Corey Hartの「Sunglasses At Night」とか。


エンディングの西部劇風のテーマ曲も、カッコよくてなかなか痺れました。

映画を何度も観直すと新しい発見があったり、伏線に気が付いたりと、こういうところはジョーダン・ピール監督は、デヴィッド・リンチ監督の影響を受けているのではないでしょうか?


映画『NOPE/ノープ』は、単なるSFホラーの域を超えて、人間優位性の批判、人間と自然の共存の難しさも含んだ奥の深い異色作です。


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