[ロシアのウクライナ侵攻の背景にある脅威]『戦場としての世界』①(H・R・マクマスター)

H・R・マクマスターの『戦場としての世界』(2021年)を読みました。



トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めた著者が、中国、ロシア・イラン・北朝鮮などの脅威に対して、自らの経験に基づいて綴った超ハードな国際政治・外交の現代史です。

ロシアのウクライナ侵攻からちょうど2年が経ち、反プーチン派のナワリヌイ氏が刑務所で死亡というニュースが飛び込んできましたが、本著を読んでウクライナ戦争の背景に潜むプーチンの構想や、それを阻もうとするアメリカの思惑の壮大な背景が見えるようになりました。


また、中国、イラン、中東、北朝鮮といったアメリカへの対抗勢力についても実に詳しく深堀りされており、その歴史的背景と世界情勢の複雑さに圧倒されました。

実戦経験のある当事者ならではの緊迫感と、覇権争いの現場で起きている生々しい現実に対峙することを読者に対して要求します。

現代社会が対峙している安全保障問題を解決するためには、「歴史に学んで戦い続けるしかない」という著者の主張は、心にズシンと重く響きます。

平和な日本に住んでいる限り、決して知る機会のない(メディアでも報道されない)衝撃の事実の数々。。。

本が人生に与える影響があるとすれば、間違いなく私自身の生涯ベスト本に入る1冊です。

以下に本著の内容を所感をまとめました。

(2024年2月26日 追記)
本著の膨大な内容をすべて網羅しようとすると1つのブログ記事では収まらないので、国ごとに分けて順次投稿することにしました。
今回はロシアがトピックで、以降、中国、中東、イラン、北朝鮮と続きます。

1. H・R・マクマスター

『戦場としての世界』の著者H・R・マクマスターは、1962年生まれのアメリカ合衆国の退役軍人です。

(以下wikiより引用)

陸軍能力統合センター長、陸軍訓練教義コマンド 副司令官、ドナルド・トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官を歴任しました。

H・R・マクマスター(写真:ロイター/アフロ)

人物
1997年に刊行されたマクマスターの著書『義務の放棄』 (Dereliction of Duty) では、ベトナム戦争におけるロバート・マクナマラとリンドン・ジョンソン大統領の失敗を論じている。同書においてマクマスターは、解決を目指した軍事行動が抜けだらけの情報、混乱し矛盾した軍事目的によって失敗を招いたと分析している[20]。

2005年のイラク戦争におけるタルアガル奪回作戦では、将兵にアラブの伝統衣装を身に着けさせ地元民に扮し、家の壁の絵からスンニ派とシーア派を区別する方法を兵士に教えるなど、きめ細かい作戦指揮を行ったと報道されている[21]。

2005年のイラク戦争におけるマクマスター大佐の活躍
そして、ラムズフェルド更迭後に、イラク駐留米軍司令官(そして、後に中央軍司令官)に任命されたデヴィッド・ペトレイアス大将が、新しい戦い方と組織をつくり上げました。現場による試行錯誤とボトムアップを中核とした組織です。
その偉大な試行錯誤のひとつは2005年春、人口25万人のタル・アファルに、部下3,500人とともに派遣されたマクマスター大佐によって、なされました。 (中略) そこでマクマスター大佐は、市内に29ヶ所の小さな前哨基地を設けました。FOB(前哨作戦基地)と違ってプールもアイスクリームもありません。 反乱勢力はこれを嫌い、猛烈な攻撃をくり返し、マクマスター大佐の部隊は多くの犠牲者を出しました。でも、FOBに逃げ込むことはせず、小さな前哨基地を守り抜き、日々のパトロールを欠かしませんでした。まるで日本の交番のように。 数ヶ月後、事態は劇的に改善します。住民の協力者が増え、穏健派は武器を置き、過激派は逃げるか住民によって引き渡されました。みな、女性や子どもまで使ってテロを繰り返す過激派を、匿いたいわけではなかったのです。

アメリカ軍の勝利はテロリストたちの殲滅によってではなく、テロリストによる報復から自分たちを守ってくれると住民たちが確信した瞬間に訪れました。--三谷宏治(著)2013年 ディスカヴァートゥエンティワン『経営戦略全史 ISBN 978-4799313138 p348-349』

(引用おわり)

指揮官としてマクマスター中将のキャリアの中で著名なのは、1991年の湾岸戦争での「73イースティングの戦い」と呼ばれる戦いでの活躍です。

マクマスター大尉(当時)は、自身が搭乗するM1A1戦車、愛称”マッド・マックス”を始めとした戦車9両を中核とするイーグル(E)騎兵中隊を率いて、イラクの精鋭部隊である共和国親衛隊のT-72戦車を有する4倍の敵部隊に対して一方的な勝利を収めます。この勝利は「湾岸戦争で最も劇的な勝利」と呼ばれ、マクマスター大尉が頭角を表すきっかけになります。

マクマスター大尉が搭乗・率いたM1A1エイブラムス戦車

話が逸れますが、戦車の映画で忘れられないのが『レバノン』(2009年)という隠れた名作です。


敵の砲弾をまともに喰らったら乗組員が全員即死という密室での緊迫感を見事に再現した映画でした(ブラピの『フューリー』は良くも悪くもハリウッド的)。

マクマスターは軍人として34年間にも及ぶ陸軍勤務(もちろん命を賭けた実戦も含む)を経験しているだけでなく、軍人は歴史を学ぶべきという信念に基づいて、ウエストポイント(陸軍士官学校)を卒業後にノースカロライナ大学で歴史学の博士号を取得しています。

このような文武両道の軍人で政治家というのは、アメリカでも珍しいと思いますが、日本ではおそらく皆無ではないでしょうか?

マクマスターがトランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めた期間は、2017年2月~2018年4月のわずか1年間でしたが、これは当時のトランプ政権時代の人事では珍しいことではありませんでした。


このあたりの事情は、就任当時のニュース記事「「物言う軍人」。軍人としてのマクマスター新大統領補佐官」が参考になります。

アメリカ合衆国の歴代国家安全保障担当大統領補佐官は、政権内の国家安全保障担当職としては閣僚である国務長官や国防長官と並ぶ、合衆国政府の最重要ポストの1つであり、大統領と毎日接し、政策を提言するなど政策決定に大きな役割を占めています。

歴代の補佐官には、キッシンジャーやパウエル、ライスといった超大物たちの顔ぶれが揃っています。

このような偉大な軍人が、アメリカの国政のトップクラスのポジションに就いて、アメリカの国益だけでなく、長期的な視点から国際平和のために文字通り命を賭けて尽力したのです。

本著を読み終わって、己自身の社会活動に対する不屈の闘争心と底知れぬ勇気をもらうことができました。

2. 『戦場としての世界』

以下はAmazonの内容紹介から引用です。

日本に迫られる決意と覚悟!
戦略的ナルシシズムから脱却せよ!
安全保障担当大統領補佐官を務めた卓越した戦略家が、中国、ロシアなどの攻勢・企てに警鐘を鳴らし、 世界のリアリティを伝えます。


【内容紹介】
陸軍に34年在籍、第26代の米国家安全保障担当大統領補佐官を務めた卓越した戦略家が教える、「世界のいま」を理解するための「生きた教科書」。自らの戦場体験、徹底したリアリズム、骨太の歴史観をもとに、自由世界を守るための考え方を説き、日本語版序文では、バイデン政権が過去の政権と同じ轍を踏む可能性を厳しく警告します。
30年以上に及ぶ米陸軍での経験、歴史家・戦略家としての見識、かつ有能な現地司令官、米軍での教育訓練担当としての自らの経験を踏まえて、危機感を込めて「戦場としての世界」の実態を語り尽くします。歴史家でもある著者が本書を通じて伝えるのは、「歴史から学ぶことこそ最も重要」というメッセージです。

著者は、米国の歴代大統領をはじめとする指導者たちが陥った誤りを明らかにします。「戦略的ナルシシズム」と「自信過剰」「断念」による「慢心」から、相手の思考、戦略を見失い、現実から遊離した意思決定を繰り返してきたと強く批判。バイデン政権も過去の政権と同じ過ちを犯す兆しがすでに現れていることに強い警告を発しています。

著者は、錯綜する世界情勢を分析し、自由と民主主義を守るために何が必要か語ります。本書には中国との激烈な競争の始まり、漂流するアフガン・イラン問題・中東情勢や、プーチン・ロシア、北朝鮮など、現在および今後の世界情勢を理解する上で不可欠な視点が豊富に含まれています。読者は、著者の「戦場としての世界」に対する認識を通じて、我々が日々生活をしている世界は、じつは、各国の利害が衝突し、互いにせめぎ合っている「戦場」でもあるということを突きつけられます。

【目次】

第1部 ロシア
第1章 恐れ、名誉、そして野望:プーチンの西側に対する追い落とし作戦
第2章 プーチンの策略をかわす

第2部 中国
第3章 統制への執着:中国共産党が突き付ける自由と安全に対する脅威
第4章 弱みを強みに変える

第3部 南アジア
第5章 1年限りの戦争が20回もの繰り返しに:アメリカが南アジアに抱く幻想
第6章 平和のための戦い

第4部 中東
第7章 いとも簡単だなんて誰の入れ知恵?:中東への見方、楽観からあきらめに
第8章 悪循環を断つ

第5部 イラン
第9章 悪しき取引:イランの40年に及ぶ代理戦争と成立しなかった和解
第10章 選択を迫る

第6部 北朝鮮
第11章 狂気の定義
第12章 それらがなければ、彼はより安全に

第7部 アリーナ
第13章 新たな競争の舞台へ

(引用おわり)

Amazonのカスタマーレビューでは、4.3/5.0と高い評価を得ています。


以下に各章ごとの所感を超簡単に記します(太字は本文より引用)。

3. ロシア

ロシアはアメリカやその他の西側諸国に対して、2017年ごろからあらゆる攻撃を加えている

そのひとつが、アメリカ大統領選における、フェイク記事の捏造や世論工作で、アメリカ社会の内部に対立や分断を引き起こそうとする試み

各種のサイバー攻撃によって、エネルギーなど重要インフラの脆弱性を突き、社会に混乱を引き起こしたり、国家機密情報を盗んだりもしている

大衆に人気のある野党指導者アレクセイ・ナリヌワイに対して使用禁止の神経剤で暗殺を企て、未遂後には彼の収監を決めた

それでもドイツは、ロシアを起点にバルト海を経由する110億ドル規模のノルドストリーム2の天然ガス・パイプライン敷設計画を中止しないと決めた。

アメリカとドイツの間にくさびを打ち込む戦略

この計画はクレムリンへの資金流入を増やし、ロシアにドイツ国内の天然ガス供給を牛耳る力を付与し、ロシアが従来のパイプライン通過国であるウクライナを弱体化させることを可能にしてしまう

執筆当時はまだウクライナ戦争が勃発する前でしたが、これがまさに現在ウクライナで起きていることです。。。

ナワリヌイ暗殺未遂事件とロシアに帰国した彼の収監という対応はプーチンにとって裏目に出た。ナワリヌイは野党で最強の政治家となった。いくら大勢を逮捕・拘束しても抗議運動は続いた

プーチンは常套手段である民族意識をあおり、自らの権威が衰える前にヨーロッパとアメリカを貶めようと(おとしめようと)する挙に出る公算が大きい

ウクライナ侵攻で民族意識をあおって、国内問題から国民の目を逸らす。。。まさにこれも現在起きていることですね

戦略的ナルシシズム

戦略的ナルシシズムとは、海外で直面する課題を自国との関係においてのみ定義し、ほかの国々が先行きに及ぼす影響を軽視していまうアメリカの独り善りな傾向を指す

これは、かつてのトランプ元大統領の、駐留費を払わずアメリカに直接利害の薄い「海外米軍の撤退」(日本やドイツ、韓国からの撤退など)のことを指しています

イラク侵攻後に、フセイン政権を打倒したからと、あとは民主主義が自助努力で育つのを見守ればよいと勝手に軍を引き揚げてしまい、結果的にはISIS(イスラム国家)の台頭を招いてしまったという軍事的/政治的な失敗も典型的な戦略的ナルシシズム

さらに遡れば、アフガニスタンからの一方的な軍事撤退が、その後のタリバンの台頭と、9/11同時多発テロの温床を生み出したわけです

「アメリカの独り善がり」とありますが、戦略的ナルシシズムに陥っているのはアメリカだけではありません

「より強大な敵であっても打ち破ることができる。最大限の努力を尽くし、そして最も徹底的に、慎重に、注意深く、巧みに敵方のすべての「裂け目」に、たとえそれらが極小のものであっても、間違えずに付け入ったなら可能になる」(ウラジミール・レーニン)

ロシアの国家としての強靭さを象徴していますね。。。

この強靭さと不屈の精神で、第2次世界大戦では2000万人の犠牲を払いながらもナチスドイツの侵攻に打ち勝ったのです

ウクライナ戦争での国内メディアの報道は、やれどこぞこの地域はウクライナが奪取したとか、ロシアの時代遅れの兵器に対して欧米支援のウクライナの最新兵器は優位だとか、日本はどう対応すべきかとか、表層的な部分しか伝えていません(例えばこのNHKの報道

ウクライナへの軍事侵攻以来、欧米や世界各国のロシアに対する経済制裁は、ドイツのようにエネルギーをロシアに依存している国などまったくもってバラバラであり、これはまさにロシアが狙う「裂け目」を徹底的に攻められているわけです

ゼレンスキー大統領の支持率が最近低下していると報道されていますが、長期戦になり死傷者がどんどん増えて、経済活動が破綻をきたしている状況では、この状況もロシアは予知していたのかもしれません

歴史を振り返ってみれば、東西ベルリンの壁が崩れてドイツ統一が果たされたとき、当時のエリツィン大統領とクリントン大統領の間では、平和下での冷戦終結の条件として「NATOをこれ以上東側に拡大しない」という約束がありました

それが、あれよあれよという間にNATO加盟国が増えてしまい、しまいにはロシアと国境を接するウクライナまでがNATO加盟を推進するゼレンスキー大統領が政権を握ってしまったわけです

(2024年2月27日 追記)スウェーデンがNATO加盟。32か国目です。

EUそのものは、1995年から2013年の間に加盟国が12か国から28か国に急拡大した

ロシアにすれば、安全保障の約束を反故にされたわけです

まあ歴史を振り返れば、国家間の協定や条約なんて、破棄や違反なんていくらでもあるわけですが。。。

ロシアのシリアへの内戦介入

2013年8月にアサド政権は有毒ガスを使用して1400人(何百人の子どもを含む)を超す罪のない市民を殺害した

プーチン大統領は、おそらくオバマ政権のアメリカは侵略行為に反応しないと結論付けて、2014年にクリミアを併合し、ウクライナの東部に侵攻した

2018年2月、ブリゴジンのワグネルから派遣された戦車と火砲で創部を強化したロシア人の傭兵部隊と親アサドの兵力が、シリアの北東部で米軍の軍事指導を受けたクルド系・アラブ系の武装勢力(シリア民主軍)を攻撃した

しかし、攻撃はきちんと練られていないお粗末なもので、シリア民主軍の反撃に遭い、ロシア人の傭兵たち200超が死亡した

衝撃の事実の数々

このくだりを読んだだけで、日本で平和に暮らしている一般人からはまるで想像もつかないようなおぞましい阿鼻叫喚の地獄が、異国で実際に起きているという事実に衝撃を受けます

傭兵って自ら進んで自分の命を極端な危険に晒して金稼ぎしてるってことか?

それがビジネスとして成立している世界って一体何なんだ?

パトルシェフ(ロシアの国家安全保障担当)との会談

パトルシェフの主張
1. クリミア併合とウクライナへの侵攻は、現地のロシア系住民を守るための防衛的な対応だ
2. NATOが加盟国の拡大を進めているのは、ロシアに対する威嚇行為だ
3. アメリカと同盟国は、アフガニスタンやイラク、リビアに介入し、中東でテロリストの脅威を高めてしまった責任がある

マクマスターの主張
1. クリミア併合とウクライナへの侵攻は、第二次世界大戦後、ヨーロッパで初めて力づくで国境線が引き直された
2. 両国ともそれぞれに主権の堅持を求めているはずだ(偽情報の流布、世論操作、政治工作といった活動を止めることがクレムリンの利益にもなる)
3. 両国ともジハード主義のテロ組織から自国民を守る義務がある、アフガニスタンのタリバンにロシアは武器を供与して両国に脅威をもたらす組織の強大化に手を貸してしまった

プーチンとトランプという国家を代表するトップ交渉の直下での交渉が生々しく記述されており、ここを読むだけでも、外交という政治の重要性と難しさが伝わってきます

プーチンの策略の中身は偽情報の流布とその否認によるごまかしの組み合わせでできていた。
そこに新たな決め技として加わったのは、これまでの枠組みを突き崩す新技術(破壊的テクノロジー)やサイバー空間を利用して、自らが持てる通常・非通常の戦力を駆使することだった。

国連による北朝鮮への制裁をロシアが迂回している

北朝鮮の核ミサイルはロシアに対する直接の脅威になるだけでなく、北朝鮮の核武装という事態を受けて日本などの近隣諸国が自らにも核兵器が必要だと決意する展開を招きかねない

日本でノホホンと暮らしていると、北朝鮮が盟友のロシアに核兵器を使用する可能性はおろか、日本の核武装という将来など可能性果てしなくゼロだと思ってしまいます。

しかし、物事を大局的に俯瞰すれば、北朝鮮のロシア攻撃とか、日本の核武装化とか、一見有り得ないような想定も、十分可能性のあるシナリオではと思えてきます。

歴史を振り返ってみれば、同盟国が敵対して戦争を始めたり、敵の敵は味方なんていうロジックで敵国同士が同盟を組んだなんて例は近代史のなかでもいくらでも挙げることができますね。

かつてシリアがイランの資金援助で核開発を進めた際にも、北朝鮮はこれを支援した

シリアがデリゾール近郊で建設中だった原子炉をイスラエルが2007年9月に攻撃し開発を阻止したが、北朝鮮の科学者10人が巻き添えになって死亡したと報じられている

ギョエー!マジか!!

映画『トップガン マーヴェリック』に出てくるような、戦闘機で敵国に侵攻して核施設を破壊するなんてことが、ほんの15年前くらいに実際に起きていたとは。。。!

Skydance | Top Gun: Maverick | New Official Trailer (2022)

しかも、北朝鮮の科学者10人が攻撃の巻き添えになって死亡なんて、あまりにヘビー過ぎる。。。

Copilot AIに訊いてみました

自分
シリアがデリゾール近郊で建設中だった原子炉をイスラエルが2007年9月に攻撃し開発を阻止したのは戦闘機での突入だったのですか?イスラエルには犠牲者は出なかったのですか?攻撃の詳細を教えてください。

Copilot
イスラエル政府は、シリアが秘密裏に建設していた原子炉に対し、イスラエル軍戦闘機8機が2007年9月に空爆攻撃を仕掛けていたことを初めて公式に認めました。

この攻撃は、シリア東部デリゾール地方にある原子炉を標的としていました。原子炉はうねるような丘陵の間にある砂漠に紛れ込んだ変哲もない四角形の建物の中にありました。イスラエルのF16とF15両型戦闘機8機が約2時間後に精密誘導爆弾を投下し、原子炉を破壊したとされています。この攻撃により、シリアは中東で最初の核保有国になる可能性もあった原子炉の完成が阻止されました。

幸いにも、この攻撃によってイスラエル側には犠牲者は出なかったとされています。イスラエル政府は、核兵器による脅威を許さない姿勢を示したと述べています。

この事件は、シリア内戦の展望へのイスラエルの懸念や、シリアを支援するイランと欧米諸国との核合意の問題とも関連しているとされています。


。。。本当だった

書籍も出ている


イスラエル政府がこの攻撃を公式に認めたのは2018年になってからだそうです

一方のシリアは、攻撃を受けたことも核施設を建設中だったことも、公式にどちらも全く言及していません

下手をすればイスラエルとシリアの全面戦争が勃発する危険もあったリスクの高い攻撃。。。

以下はHonzからの引用です

遠い中東の話だが、私たちにも深く関わる問題だ。なぜなら、シリアの核開発に関与していたのは北朝鮮である。つまり、日本の安全保障に直結するのだ。さらにいえば、その後のシリア内戦で、アルキバール原子炉があった地帯はIS(イスラム国)に占領された。原子炉が破壊されていなければ、ISが核武装していた可能性もあったのだ

イスラエル政権中枢の者たちの親はホロコーストの犠牲になった世代だ。彼らは虐殺の歴史を繰り返さないと決意していた。

(引用おわり)

話は逸れますが、イスラエルのガザ地区へのハマス攻撃は国際的な非難を浴びていますが、ホロコースト犠牲の過去を持った国の自衛に対する決意がどれほどの重みなのかは、(自分を含めて)日本国民には決して理解できないでしょう

ついでにデリゾールというシリアの街も調べてみました


空港があってモスクがあってスーパーマーケットもある


日本と何の縁もない異国の地でのイスラエル空軍による原子炉攻撃の情景を想像してみるが。。。あまりに非日常過ぎて何一つ頭に浮かんでこない。。。

プーチンやパトルシェフやクレムリンにいる彼らの同僚たちの感情という要素が、国益上の損得計算と同じくらいに強く突き動かしている

人びとを紛争へと牽引するのは損得計算だけではなく、恐れと名誉だ

ボリス・エリツィンの政府ではシロビキ(ソ連時代に内務省や軍、KGBに所属していた上層部の強行派)が占める比率はわあずか4%だった。プーチンの政権になるとそれが58.3%に跳ね上がった。

ソ連崩壊後のロシアが市場経済への移行に失敗したため、冷戦で西側に敗れた(ソ連時代の領土の1/4を喪失)ことに名誉を傷つけられたオリガルヒ(1990年代に民営化の時代に巨額の富を蓄えた強大なビジネスマンたち)やKGB時代の勢力が反攻に転じたということですね

虚偽の情報を素早く、継続的に、しかも繰り返し吐き出すロスアの宣伝工作は「嘘をまき散らす消化ホース」と形容されてきた

このフレーズは本書中で再三繰り返されます

プーチンにとってはロシアと競い合う国々を混乱に陥れ、分断し、弱体化させることこそがゴールである

アメリカ大統領選挙への働きかけでは、ロシアはアメリカの政治体制の分極化をあおり、民主主義の原理・原則や制度、プロセスを損ねることに力点を置き、それは奏効した

アメリカにおける政治的、社会的な対立を激化させることを目的としたインターネット上での取り組みでは、秘密裏の組織であるIRAが、フェイスブックやツイッター、グーグル、レディット、タンブラー、ミディアム、ヴァイン、ミートアップを使って情報操作のたまの発信やなりすましを進めた

ロシアのIRAはフェイスブックの機能、例えば広告、ページ、イベント、メッセンジャー、そしてスタンプまで最大限活用した

IRAは累計でフェイスブックで1億2600万人に接触し、ツイッターに1040万本のツイートを投稿し、ユーチューブに1000本を超える動画をアップロードし、インスタグラムで2000万人のユーザーとつながった

ソーシャルメディアやウェブサイトといった自由民主主義の生態系の「裂け目」を巧みに利用して、徹底的な攻撃を仕掛けるということですね。。。

「より強大な敵であっても打ち破ることができる。最大限の努力を尽くし、そして最も徹底的に、慎重に、注意深く、巧みに敵方のすべての「裂け目」に、たとえそれらが極小のものであっても、間違えずに付け入ったなら可能になる」(ウラジミール・レーニン)

社会の分断を助長し、情報源に対する信頼を低下させる取り組みを徹底するロシアの戦略は、冒頭に紹介した上のレーニン思想そのものです

ロシアは自国が備えているサイバー攻撃の威力も誇示している。ロシアは2016年の選挙妨害に先立ち、アメリカの重要なインフラを標的に定めて悪意のある侵入を行った

脚注のサイトを調べてみました


米国政府、エネルギー産業など重要インフラのドメインコントローラー、ファイルサーバー、Eメールサーバーが侵害を受けたようです

海外でサイバー攻撃を展開する能力を持つことはそれより前に明かしていた。

2015年のクリスマス・イブにウクライナ東部で停電を引き起こし、その被害は住民20万人に及んだ。サイバー攻撃によって一つの国の送電網が遮断された最初の事例だった。ロシアはウクライナを停電に追い込み、アメリな民主党全国委員会にハッキングを行っていた間に、アメリカの原子力発電所に、続いて水道・電力系統の情報ネットワークに悪質なプログラムを忍び込ませた。

ロシアはサイバー空間からインフラに対する脅威を突き付けて、アメリカとNATOの同盟諸国を威嚇し、ロシアが実際に攻撃をした場合に対抗することを思い止まらせようとしている

ロシアのサイバー攻撃によるウクライナの大規模停電は、2015年と2016年の2度に発生しています

サイバー攻撃のなかには、重要インフラの操業を停止するだけでなく、ランサムウェアという身代金を要求する悪質なものも含まれています

データの窃盗やシステムの損壊などの被害をもたらすサイバー攻撃に対抗するためには、「境界」防御の発想や、システム全体に多段階の安全管理の障壁を張り巡らす多層防御の発想の先に進まなければならない

著者のサイバー攻撃に関する知見の深さには驚きます。。。境界防御は通称DMZと呼ばれる概念で、多段階の安全管理は2段階認証として知られている概念で、いずれもIT技術に通じていなければこのようにサラッと記述することさえできないでしょう

さらに突っ込みます

ロシアのような有能な国家主体は手の込んだ防衛線でも突破できる。このため防御一辺倒ではない、優れた攻撃の発想も求められる(能動的防衛)

サイバー攻撃に対して、こんな防御のための攻撃というコンセプトがあること自体、目から鱗です。。。

ドイツはヨーロッパで最も繁栄した国であり、それゆえプーチンの恰好の標的になる

ドイツでさえも、ロシア産の天然ガスに代わる供給源を排除するという政策を選択してしまい、自らの立場を弱めてしまった。恥知らずな腐敗が一役買っていた。2005年、首相任期の終盤にあったゲルハルト・シュレーダーは、ロシアからドイツにガスを輸送する海底パイプライン敷設計画であるノルドストリームのパイプライン運営会社の株主委員会の会長に就任した

プーチンとシュレーダー(出典:クーリエジャポン

シュレーダー元ドイツ首相について調べてみました(以下Wikiより引用)

ロシアによるウクライナ侵攻後の対応
2022年2月5日には、ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムの取締役に指名されている[17]。この後、2月24日にはロシアによるウクライナ侵攻が発生した。

シュレーダーは侵攻発生後もロシアとの関わりを断つべきではないとSNSへの投稿を行っており、またロシア国営企業の役員も辞さなかった[18]。同様の立場にあった西側の元首脳は相次いで役職を辞任したため、シュレーダーの親露姿勢が際立つ形となり[19]、各方面からシュレーダーに対する批判が起こった。ドイツ社会民主党はシュレーダーに役員職の辞職を要求し、党ウェブサイトの「偉大な社会民主党員」の項目からシュレーダーを削除した[20]。またスポーツ界ではボルシア・ドルトムント[21]とドイツサッカー連盟(DFB)がシュレーダーの名誉会員資格を剥奪した[22]。

3月11日、モスクワでプーチン大統領と会見しているが、ドイツ連邦政府は関与を否定している[23]。

5月19日には欧州議会がシュレーダーがロスネフチの取締役を辞任しない場合には、対ロシアの制裁対象に加えるという決議案をまとめ[24]、ドイツ連邦議会予算委員会も首相経験者に対して認めている特権を一部停止する決定を行っている[25]。5月20日、ロスネフチはシュレーダーが監査役会長を辞任すると発表した[25]。

8月5日には、7月下旬にプーチン大統領と面会していたことを明らかにした上で「良い知らせは、クレムリンが交渉による解決を望んでいることだ」と発言。これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は名指しこそ避けたものの、国家の元指導者がロシアのために働くのは不快極まるとの批判を行った[26]。

(引用おわり)

確かにシュレーダーとプーチンの個人的なつながりは深いようですが、この関係が、最終的にヨーロッパの安全保障にマイナスに働くのかどうかは不明です

ちなみに、「シュレーダー元独首相、ロシア企業とのつながりで批判」という記事を読んで、メルケル元首相は東ドイツで生まれ育ったことを知りました。

バルト海を経由してロシアからドイツへ供給される天然ガスの量は2倍になる予定だ。このパイプラインには、ドイツのロシアへの依存度を引き上げるだけでなく、ウクライナを罰する狙いが込められている
陸上のパイプラインで得られる通過料、年間にして最大20億ドル、GDP比で1.5%相当がウクライナから失われる

これはウクライナにとってはとてつもないほどの経済的損失ですね

中国の一帯一路(習近平が提唱したアジアとヨーロッパを中心に、陸上と海上で東西をつなぐ経済圏構想のこと)と同じ地政学的なインフラ投資だと思います。

アメリカ一国の国防予算はロシアの11倍にあたる6850億ドルだった。ヨーロッパとアメリカはロシアに対する絶大な比較優位を保持している。プーチンの策略にはまらないためには、これらの優位性をフル活用すると共に、クレムリンが突こうとしている脆弱な部分を正さなければならない

脆弱な部分というのは、欧米の連携の乱れ、自国内の対立、民主主義の負の側面などを指しているのでしょう。

4. 日本はどうか

以下は書評から逸脱しますが。。。ロシアとウクライナの戦争は、日本には果たしてどう影響するのでしょうか?

ロシアの対欧米社会に対する国土拡張の野望には、当然日本(特に国境を接する北海道)も含まれています。

日露の関係改善には、戦後70年に渡って北方領土問題が立ち塞がっていますが、プーチンにとって領土返還など全く有り得ない選択肢であり、むしろ北海道に侵攻する可能性のほうが圧倒的に高いです。

もし大統領選でトランプ政権が復活したら、ウクライナへの軍事支援が止まってロシアが勝利するのではと懸念されていますが、在日米軍費用の負担を求めて日本政府に詰め寄って、在日米軍の規模が縮小なんてことになったら、ロシアにとっては日本も格好の標的になります。

在日米軍は基地問題を含めて沖縄で様々な問題を抱えていますが、果たして在日米軍に出ていけと声高に主張するのは正しいのでしょうか?

(出典:BBC News)


概要は以下のとおりです。

2021年5月、米海軍兵リッジ・アルコニス被告は、静岡県富士宮市で飲食店の駐車場で車を運転中(妻子も同乗)に85歳の女性と54歳の男性2人を死亡させる事故を起こしました。

裁判で受刑者側は「直前に家族と一緒に富士山を訪れ高山病にかかっていた。過失ではなく病気による事故だ」として無罪を主張していましたが、判決では居眠り運転があったとして禁錮3年の実刑判決を受け収監されました。

すると、アルコニス被告の家族が、ジョー・バイデン大統領に介入を求めた結果、なんと、バイデン大統領が日米首脳会談で岸田首相に問題解決を依頼、その結果、服役中にアメリカに移送、仮釈放されてしまったのです(遺族には慰謝料160万ドルを支払い済み)。

CNNによると、この受刑者がアメリカに引き渡され、年が明けた1月12日には釈放が認められ、これをアメリカでは「GREAT NEWS」として報じ、上院議員の1人は「日本は家族とアメリカに謝罪すべきだ」と主張しているそうです。

「家にいるのは素晴らしいことで、子どもたちを学校に連れて行ったり、朝食を作ってあげたり、息子にサーフィンを教えたりすることは本当に楽しいです」(米海軍所属 リッジ・アルコニス受刑者)

リッジ・アルコニスとその家族(出典:BBC News)

もちろん、当事者でも事件の関係者でもない立場の人間が、あれこれと声高に主張しても何の意味もないわけですが、この事件はニュースとしてマスコミも政府も不自然なほど取り上げることはありません(ジャニーズ問題と同じ)。

もし在日米軍が日本から撤退したあとに、ロシアが侵攻してきたら日本の国民はどう感じるのでしょうか?

現在の平和憲法を廃棄して戦闘能力を備えた日本国軍を承認して軍拡しておくべきだったのでしょうか?

それとも、沖縄問題や、上の米兵問題ような事件を看過してまで、在日米軍へ駐留を懇願すべきだったのでしょうか?

我々は途方もなく複雑に矛盾した社会に生きているということだけは確かです。

大事なのは、日本の国防における必要悪とも思える米軍に対する不平等が「残酷な事実」として存在することをしっかりと認識することにあると思います。

5. まとめ

プーチンのこうした欧米に対する非常識でルール違反の攻撃は、無法国家のならずものとしか考えられなかったのですが、こうしてロシアの立場になって冷静に分析してみると、合点がいきます。

負けを認め、民主主義に屈してしまえば、誇り高きロシア国民は、末代の将来にわたってアメリカにひれ伏して、決して優位に立つことができない状況に甘んじてしまう

かといって、同じ土俵で戦うには欧米に勝てる可能性はゼロ

ならば、いっそのこと、自国を取り巻く欧米の自由主義や資本主義の発展を徹底的に邪魔することによって、民主主義や自由経済の恩恵を捨ててでも、相対的にロシアの国際的地位を引き揚げるほうがまだマシだという発想

欧米や民主主義/自由経済だって、決して万能ではないし、「絶対的に正しい」社会構造でもない

もしアメリカ国家が現在のロシアと同じ立場に置かれたら、おそらく似たような卑劣な戦略で徹底的に対抗するのはまず間違いないでしょう。。。

最近、プーチンとロシアは習近平国家主席と中国共産党を相手に「包括的な戦略的パートナーシップ」を構築した

中ロを比べた場合、ロシアのほうが小さくて弱い存在であり、中国と大同盟を形成するというのは不自然である

プーチンは欧米やその他の自由世界に対して危険な攻勢を仕掛けている。しかし、突き付けている挑戦の規模、戦略の悪質性という点では、習近平の中国共産党に由来する危険のほうが深刻だ

プーチンのアメリカに対する攻撃は大胆ではあるが、より大規模で複雑な脅威を提示しているのは多くの意味で中国である

プーチンとロシアの脅威だけでもうお腹いっぱいですが。。。中国はさらに脅威なんですね

ということで、『戦場としての世界』次回のトピック②は「中国」です。


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